もっと保温性のあるものを羽織ってくればよかったと後悔をした。 冷たい空気で潤んだ瞳を必死に凝らし、ひたすら辺りを見渡す。
多分そう遠くへは行っていないはずだが、どこにいるかなど検討もつかない為探しようがない。
元来た場所をゆっくりと辿って行くと、結局アパートまで戻ってきてしまった。
部屋に明かりはついていない。
やはり塔子はまだどこかにいるという事か。
先程から何回無視されているかわからない電話を、もう一度だけかけてみる。
発信音と同時に耳に飛び込んできた音は、聞き慣れた塔子の携帯の着信音。
「塔子。どこにいる」
怒っているというよりは、心配をしたという事で少しきつい言い方になってしまったかもしれない。
しばしの沈黙のあと、塔子の鼻をすする小さな音が頼りとなり、俺はすんなりと塔子を見つけた。
「…ほら、帰るぞ」
「やだ」
「風邪をひくだろう」
「やだ!」
どうしてこうも素直ではないのだ。頑なに座り込んでいる塔子を引き上げようと腕を掴むが、あまりの冷たさに思わず手を離してしまいそうになった。
…一体どうするべきか。
ここまで喧嘩が大きく発展した事は今までに一度もないのだ。
しかし、殴られようが家を出ていかれようが、別れるつもりは一切ない。
「…俺が悪かった。仲直り、してくれないか」
「…なんで。なんで鬼道が謝るんだよ…。悪いのは、あたし、なのに…っ、」
本格的に泣きはじめた塔子を黙って抱き締めた。 抵抗はしないようなので、ここまでくればもう安心だ。
しばらく抱き締めていると、鼻声の塔子が「あたし、もう駄目かと思った」とぼそりと呟いた。
「…いや、俺の方がもう駄目かと思った。お前を探している間、ある程度の覚悟はしていたからな 」
「うそ」
「嘘じゃない」
まぁ別れるつもりは一切なかったが。
塔子は俺の胸元に顔を埋めたまま、ゆっくりと手を伸ばし俺の右頬を撫でた。
「…痛かっただろ?…ごめんね」
「少しだけ、な」
視線を下げれば、塔子の涙で随分と色が濃くなった俺の服があった。
わたしたちの帰る場所
それにしても、最近よく泣くようになったな。