もう駄目かもしれない。
数時間前に比べて随分と汚くなった部屋と、勢い良く玄関のドアを閉める音を聞いて、俺は正直にそう思った。
とりあえず、割れた食器やら乱れた家具類を片付ける事にする。
…しかし、よくもこんなに散らかしたものだな。
傍から見れば、これはごく普通の "恋人同士の些細な喧嘩"にすぎないだろう。
そう、いつもと何一つ変わらない、ただの喧嘩にすぎないのだ。
俺達は昔からかなりの頻度で喧嘩をしてきた。
俺と塔子の性格は、全くと言っていいほど逆であり、この関係がここまで長く続いてるのが不思議なくらいだ、と言われる事が暫しある。
しかし、今回の喧嘩はなんとなくいつもと違う気がして、どうも落ち着かないのだ。
何が違うか、どう落ち着かないのかはわからないが。
塔子が出ていってからまだ数分もたっていないはずなのに、その間がとても長く感じた。
追い討ちをかけるようにズキズキと痛みだす右頬を押さえ、携帯と財布だけを乱暴にジーンズのポケットに詰め込み、俺は家を出た。
塔子に殴られたのは、今日が初めてだ。
あなたがいない