※何年後かの2人
帰ってくる時間は大体決まっていて、いつも21時過ぎくらい。
夕飯は出来立てを出したいから1時間程前から作りはじめる。
料理は正直あまり得意ではなかった。 同棲する時にこっそり買った料理レシピとは、まだまだ長い付き合いになりそうだ。
それに今日は、"特別な日"だから手抜きはできない。
大体のメニューが完成して、時計を見ればもうそろそろ帰ってくるはずの時間。なんだけど。
一向に帰ってくる様子はないし、連絡もない。
「もう10時過ぎちゃったよ…。ご飯、冷めちゃうだろ」
もしかして鬼道、今日が記念日だってこと忘れてるのかな。
そうだよね。だってあたし言ってないし、鬼道も忙しいし。
はぁ、と出た溜め息とほぼ同時に家のインターホンが鳴った。
いつもより遥かに長く感じる廊下を歩き、鍵とチェーンを外す。
「…おかえり。…今日遅かったな」
言いたい事はたくさんあるけど、喧嘩になったら嫌だからここは我慢だ。
「塔子、」
「何? 突っ立ってないで中入んなよ」
鬼道は一向にその場から動こうとせず、スーツのポケットから何かを取り出した。
ちょっと黒っぽくて、四角い感じの、小箱?
「今まで俺の傍にいてくれてありがとう」
結婚、しよう。
鬼道はそう言うと、あたしの薬指にシンプルなデザインのシルバーリングを嵌めてくれた。
君と在る時間
それが僕の全て。