公園の街灯が付く瞬間を見た。
先程まできゃあきゃあ言いながら走り回っていた子ども達は母親と一緒に家路を辿っていったようだ。
公園と言っても、シーソーとブランコと水道しかない質素な遊び場である。
ガキの頃、母親が抱き抱えてくれなければ水道に背が届かなかった。
そんな淡い記憶が、一瞬だけ脳裏をよぎった。
蛇口をひねり、水を掬う。
ビニール袋の中の小鉢にそっとかけてみたが、花はそっぽを向いている。
せっかく水をやったのに、かわいくねー花だ。
「背、届くようになったじゃない」
「…今届かなかったらやべえだろ。つかお前おせーよ」
冷静を装ったが、突然声をかけられたので正直ビビった。
パーカーにジーンズといったラフな格好の小鳥遊が、詰まらなそうに立っている。
それすらも懐かしく思えてしまった。
久々に会ったが、色気がないのは変わっていないらしい。
なんて言ったらぶん殴られるか。
「…で、何? 用事あるから呼んだんでしょ」
「お前、俺が帰ってきたのにおかえりなさいとかないわけ?」
「はいはいおかえりなさい。
で、何?」
あー、まじこの女腹立つわ。
しかし今日は喧嘩をしに来たわけではない。
この、花、を
俺が買ってきてやった、この花を渡すために呼び出したのだ。
今思えば何故花なんかにしたのだろう。
「これ、やる」
早く処分したくて、強引に小鳥遊に押しつけた。
小鳥遊は目を丸くしたまま、袋の中の花を見つめている。
「…いらなかったらその辺捨てていいぜ」
「あんた、この花何か知ってんの?」
「あー…花屋の婆さんがなんか言ってたけど忘れた」
「あんたが選んだの?」
「おー」
意外だ。
正直こんなに食い付くとは思っていなかった。
てか寒いから早く帰りたい。
「…あり、がと」
「………おう」
予想外の展開に、俺も流されるしかなかった。
悲しんでいるあなたを愛する