日本に到着してから真っ先に花屋へと向かった。
商店街の隅にある、こじんまりとした花屋だ。
店主であろう綺麗な顔立ちの婆さんが、レジの近くでやんわりと微笑んでいた。
俺は大雑把に店内を見渡し、目についた適当な花を選ぶ。
「すんません、その青っぽいヤツ下さい」
そう声をかけると、婆さんは「あら、いらっしゃい」と嬉しそうに花を触りはじめた。
「あ、違う。その黄色いヤツの隣の青っぽいヤツ。鉢に植えてあって、そう、それそれ」
「ああ、リンドウね」
俺の馬鹿みたいな説明で、ようやく婆さんは理解してくれたらしい。
最近アレとかコレなどに頼りすぎててよくねえな。
「貴方はこのお花が好きなのかしら? それとも誰か大切な人にプレゼント?」
婆さんは、小鉢に植えられている花を綺麗にビニール袋の中に入れてくれた。
「…まぁプレゼントみたいなもん」
「そうなの。 優しいのね。
お相手の方、きっと喜ぶわ」
渡されたビニール袋の中を覗けば、寂しそうに小鉢から顔を出す青い花と目があった、ような気がした。
リンドウ、な。
多分すぐ忘れる。