能面のような顔付きで見つめられている。


このまま見つめ合っていたら、目の前の真っ黒な瞳に吸い込まれてしまいそうだった。




「…んだよ、何がそんなに珍しいんだ」



小さく舌打ちをしたら、能面のような顔を少しだけ歪めて「ごめんなさい。不動くんが泣いているところ、見たことがなかったから」
と言った。


「俺が泣いたらいけねーのかよ」

鼻にかかった汚ねえ声だと自分でも思う。 瞼は腫れぼったく、旨く相手を睨めない。



目の前の女、いや、久遠冬花は何も言わずに、まだ不思議そうな顔をしていた。
馬鹿にするわけでもなく、同情するわけでもなく、ただ見ているだけなのだ。
俺の、涙と鼻水でべとべとなこの顔を。




「不動くん、」


蚊の鳴くような声で俺の名前を呼ぶと、その細くて真っ白な腕をゆっくりと伸ばしてきた。



嘘だろ、おい。






「肌と肌をくっつけるとね、人間て安心感を覚えるらしいよ」



でもわたし、今洗い物してたから冷たいかも。




久遠冬花は俺の耳元でくすくすと笑う。
生温い息がかかり、鳥肌が立った。



「大丈夫、大丈夫だよ、不動くんは偉いもの。 よしよし」


久遠冬花は俺の頭をぐしゃぐしゃ撫でた。 もう抵抗する気にもならなかったので、そのまま目を閉じたらアイツは「不動くんは綺麗だね」と、細い声でこう言った。








俺は久遠冬花が怖い。











小宇宙となみだ







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