小さい頃、おもちゃのピアノが大好きだった。
グランドピアノと同じ形で、色は赤。
グロッケンのような音がする。
姉さんに教えてもらって、やっと弾けるようになった音階。
おもちゃだから
ドレミファソラシ、までしか無かったんだ。
高いドの鍵盤が無くて、私は泣いた。
駄々をこねて、姉さんを困らせた記憶が鮮明に残っている。
それから数年がたち、サッカーを破壊の為に使うようになった。
結局非情になりきれない自分に嫌気がさして、夜は部屋でずっと泣いていた。
物に当たり散らす事しかできない弱虫だ。
部屋の中で思い切りボールを叩きつければ、ガシャンという音と、寂しそうなチンという音が耳に届いた。
ボールの下を見てみれば、私の大好きだった、赤いおもちゃのピアノ。
鍵盤を指で叩いてみたら、ドレソラシ、しか鳴る音はなかった。
私は泣いた。
こんな臆病者な私でも、一丁前に涙を流すのだ。
「一度好きになってしまったらね、なかなか嫌いになれないものなのよ」
瞳子姉さんが言っていた、いつかの言葉を思い出す。
姉さん、
貴女は、私の事をまだ好きでいてくれていますか。
嫌いになるって難しいの