とにかく、何かをしていたかった。
花に水をあげる事でも、部屋をかたづける事でも、散歩をする事でも、何でも良い。
この理由のわからない憂鬱な気分をなんとかしたいのだ。
とりあえず、外に出てその辺を散歩してみる。 真夏の暑い日射しが容赦なく照りつけるが、そこまで苦ではなかった。
喫茶店の窓ガラスに、最近買ったお気に入りのカンカン帽とあたしの姿が映る。
無性に喉が渇いたので、その喫茶店に入る事にした。
ミルクティーと小さなスコーンを注文すると、可愛らしいグラスとお皿がトレイに乗せられてあたしの元に来てくれた。
なんだか凄くお洒落な気分になり、優雅な時間を楽しもうとミルクティーにガムシロップを入れる。
かき回せば、氷とグラスがカランとぶつかる音が響いた。
うん、いいね。
*
しかしそんなお洒落な雰囲気など、ほんの一瞬の夢に過ぎなかったのだ。
隣にある大きな窓ガラスに眼をやれば、横降りの激しい雨がガラスを叩きつけているではないか。
…最悪だよ、本当に
生憎傘など持ち合わせていない。 家を出る時はあんなに晴れていたのだから当たり前だ。
雨宿りをしようと、だんだん人が増えてきたせいでげんなりする。 さらば、あたしのお洒落な気分。
店の外に出れば、先程よりはマシだがまだ強い雨が降っている。
もうこの際どうでもいいや。
そう思い、屋根の下から出た。
しかし、冷たいと思ったのはほんの一瞬で、それと同時に雨が傘を叩く音が耳に入る。
「風邪を引くぞ」
後ろを振り向けば、ビニール傘をこちらに向けている鬼道がいた。
*
「いやー、助かったよ」
鬼道は、あたしを家まで送ってやると言った。
そんな鬼道の言葉に遠慮なく甘えさせてもらう。
他愛の無い話しかできなくてつまらないだろうと心配したけど、鬼道は頷きながら聞いてくれるから少し嬉しくなった。
鬼道の良さって、実際に話してみなきゃわかんないんだよな。 あたしは、鬼道が凄い優しくて、他人に対する思いやりがあって、だけどちょっと不器用なところも知っている。
そんな事を思っていたら、もうあたしの家の付近だ。
行きより何倍も早く感じてしまって少し名残惜しい。
「ありがとな! ごめんね、ここまで来てもらっちゃって」
鬼道はふっと笑って、構わないと言った。
段々と小さくなっていく背中を見つめる。
ふと、鬼道の左肩がびしょびしょになっている事に気が付いた。
「…あんな格好いいヤツ、中々いないよ」
あたしはちっとも濡れていない。