鬼道を見てると、うーん、何て言うんだろう。こう、胸のあたりがきゅうってなったり、息しずらくなったりするんだ。 病気なのかな。
…って、本当は理由分かってるんだけどね。
薬で治ればいいのにな。
こういう感情に支配される事に馴れていなくて、どうすればいいのかわからずに戸惑う日々をおくっていた。
散々考えた挙げ句、疎いあたしの脳みその中には"逃げる"という選択肢しか浮かばなかった。 本当に情けないな。
しかし、鬼道がそれを見逃す筈はなくて。
変なとこ敏感なヤツだから、他人の異変にすぐ気が付くんだ。 それが鬼道の良い所であり、悪い所でもある。 今の状況だと、完璧に悪い所だけど。
*
少し話そう。と言われて、ぼちぼち2人でその辺を歩いていた。 お互いなんとなく気まずくて、黙ったまま。
沈黙が続くにつれて気まずさはピークに達しようとする。 カラスの鳴き声だけが、耳の中でぼやっとこだました。
もう耐えられない。
そう思った瞬間、鬼道が口を開いた。
「…もし俺が知らない間に塔子を傷つけてしまったのならば謝る。…お前が俺を避ける理由を教えてくれないか」
その時の鬼道の顔は凄く苦しそうで、でもそんな鬼道にさえ胸の鼓動を速めている自分は本当に病気なのかもしれない。
駄目だ。
このままいったら、自分が爆発してしまいそうで怖かった。
今まで押し殺してきた想いをぶちまければ、きっと鬼道はあたしの事を気持ち悪いヤツだと思うだろう。
嫌われるのだけは御免だ。
「塔子、どうしたんだ」
仏頂面できょろきょろしているあたしを心配するかのように尋ねてきた。
鬼道はあたしの気持ちなんか知らないから、こんな事が言えるんだ。
「塔子、」
ねぇ、やめてよ
「俺は塔子が心配なんだ」
お願い、
「…塔子?」
優しく、しないで
「…っ、 もう、やだぁ…」
あたしの中で何かが爆発してしまい、ぼろぼろと涙が溢れてきた。
あたしの声は、あたしの口を使って勝手に発音をしようとする。
こら、言うな。 言うな!
「なん、で…! なんで気付いてくれないんだよ!き、どうのバカやろ…っ、
あたし、こんなに、こんなにあんたの事が、す」きなのに、とは最後まで言えなかった。
鬼道があたしの事を強く抱き締めたから。
「…塔子、ありがとう。
よく頑張ったな」
鬼道はそれだけ言って、腕の力をさらに強めた。
あとから聞いた話だと、随分前から鬼道もあたしを見ると胸がきゅうってなってたみたい。
なんか似合わなかったから面白くて少し笑っちゃった。