おやすみ、と呟き電気を消した。
それからきっと数時間は経過しただろう。
しかし、隣にいる彼女は一向に大人しくなる気配がない。
ごろごろと寝返りばかりうつので、確実にまだ起きているという事がわかる。
眠れないのか。と問い掛ければ、暑い暑い暑いと寝呆けた声が返ってきた。
冷房が壊れてしまった為に、自然の力に頼るしかないのだ。 窓は一応全開にしてあるのだが、いかんせん風が無い。
「こら塔子、布団を掛けろ」
暑いが為に、塔子は布団を全部俺の方へと寄せてきた。
塔子の薄い腹がちらりと覗く。
暑いのは分かるが、腹を冷やしてはよくないし、こういう油断から夏風邪がくるのだと何回も言っているはずだ。
そのたびに俺は、父親かと自分で突っ込みを入れたくなってしまう。
無理やり布団を被せれば、塔子はぎゃあぎゃあと薄い布の中で暴れ始めた。
さすがに可哀想に思い、布団を捲ると案の定、不機嫌そうな塔子と目が合ってしまう。
「暑い、最低、許さない」
ぼそっと呟き、俺に背を向けてそのまま不貞腐れる態勢に移行。
どうやらからかい過ぎてしまったようだ。
「塔子、悪かった。
暑かったな。 冷たい水を持ってきてやろうか」
などと変に気をつかってみたが、反応は無し。
「今週、どこかへ行こうか。
行きたい場所はあるか?」
更に問い詰めてみたら、小さく、少し鼻に掛かった声で「水族館」という答えが返ってきた。
「よし。 佐久間が大興奮するほど凄いペンギンがいる所へ連れていってやる」と言ったらふふふと笑ったきり、塔子は眠りについた。
俺は静かに塔子の腹に布団をかける。
鼻の頭に汗をかいていたので、それもそっと拭いてやった。