塔子の嘘はわかりやすい。
何故わかりやすいかと言うと、嘘をつく前とついた後に決まって目をそらすからだ。
それから絶対に俺の目を見て話そうとしないな。
*
「塔子、昨日言っていた数学の問題。 できるようになったか?」
「なったなった! そんな事どうでもいいからさ、早く遊びに行こうぜ!」
「……嘘だろう」
「う、嘘じゃないよ」
「それも嘘だな」
やはり嘘だったらしく、塔子は何も言わなくなった。
最近、この程度の小さな嘘が気掛かりなので、少し懲らしめる必要がある。
「塔子、」
「な、なに」
俺は顔を上げた塔子にキスをした。
何が何だかわかっていない彼女は目を大きく広げたままだ。
ようやくキスされている事に気が付けば、俺の胸をどんどんと叩き始めた。
「いきなり何すんだよ!」
顔を真っ赤にさせて怒っても何も怖くない。
むしろ煽るだけだ。
「お前が最近、あまりにも嘘をつくのでな。 これから嘘をつくたびにキスするぞ」
「な、何それ…!
嘘なんかついてないって言ってんじゃん!」
「それも嘘だ」
「ん、」
キスされるのが嫌だったら嘘をつかなければいいのに、動揺し始めた塔子はよくわからない嘘を永遠とつきはじめる。
正直だんだん面白くなってきた。
「っ、もうわかったから。 あたし、絶対嘘つかない」
「そうか。 しかし、まだ少し聞きたいことがあるのだが。
この前、デートをいきなりキャンセルしたな。 あれは何故だ?」
「それは…、ちょっと、
地域の奉仕作業に…」
「嘘だな」
そして本日、何度目かわからないキスを塔子に落とした。
…奉仕作業か。
もっとマシな理由もたくさんあると思うのだが。
「あーもう!わかったよ!
この前はリカと買い物してたの!
…鬼道が喜んでくれそうな服をリカと探してたんだ。
…今着てるの、一応そうなんだけどな」
そのあとに小さく「ドタキャンしてごめん」と呟いた。
「……。今日は女らしい服を着ていると思っていた。 別に似合わないわけではないが、ユニフォームとスーツ姿が見馴れてい「はい!嘘! 本当は可愛くて仕方ないくせに」
くすくすと笑いながら今度は塔子が俺に口付けてきた。
まさかここで立場が逆になるとは。
俺もわかりやすいという事だろうか。
塔子からのキスに感極まり、そのままベッドに押し倒す。
遊びに行かないの?と不服そうな顔の塔子に、今日は俺の部屋で遊ぶ。とだけ告げると 珍しくその意味がわかったらしく俺の首に手を回してきた。
「鬼道、」
「なんだ」
「大っ嫌い」
「ふ、奇遇だな。 俺もだ」
満足そうに微笑む塔子と、もう一度キスをする。
(優しい嘘つき)