とんとんとん、とリズミカルな音が聞こえた。
うとうととしている脳内では、俺は台所に立つ母さんの後ろ姿を眺めている。
その時の心境までかなり鮮明だ。 うずうずと待ちきれずに、腹を空かしている小さい頃の俺がいた。
夢なのか現実なのかよく分からずに目を開ける。
ピントがずれていた俺の目は、次第に真正面の台所にたっている人間に合わさった。
「…まじでお前何やってんだよ…」
「起きたの? 永眠してればよかったのに」
小鳥遊はこっちを見ようともせず、まな板に話掛けていた。
まな板を包丁で叩く音は、心地よいと思う。
例え小鳥遊が叩いていても、だ。
「お前料理できんの?」
「今作ってるじゃない」
「俺は、料理できんのかって聞いてんだよ」
まったく噛み合わない会話に苛々しつつも、俺は小鳥遊の後ろ姿を見つめた。
黙ってりゃいい女なのに、勿体ねー。
さっきからとんとんとんとん何切ってんだよ切りすぎだろ。
もう一眠りしようと思い、目を閉じると かなり不快な匂いが鼻を打った。
これは完璧に何かが焦げている匂いだ。
「小鳥遊」
「…」
「おい小鳥遊!」
「…」
「聞こえねーのかブス!
焦げてるっつってんだろーが!」
「うるさいわね、聞こえてるわよハゲ!
テメーいつ焦げてるって言った!」
あー、すぐこれだ。
もうやめた。
あいつと喧嘩するとお互い痣だらけになる。
今回は俺が大人しく身を退いた。 机の上には次々と食べ物「だった」ものが置かれていく。
「…何これ。炭?」
小鳥遊が怒ると面倒なので少し控え目に聞いてみる。
すると、これが本当のバーニングフェーズよ。だとか訳の分からない事を言い始めたので あ、コイツついに涌いたなと思った。
俺は渋々、野菜炒めだったものを口の中に放り込む。
苦い。
哀れな食物に涙