※闇堕ち注意















赤という色がこんなにも気味が悪いものだと思ったことは、今までにあっただろうか。




「圧倒的な強さも、弱き者をねじ伏せる力も手に入れる事が出来た。 欲しいものは全て手に入ったはずなのに、まだ、まだ何かが足りないんだ」


鬼道はゆっくりと首を傾げる。
彼の瞳に映っているものは、真っ黒な何か。

あたしの事を見ていてもその瞳にあたしが映る事はない。



「ねぇ鬼道…、どうしちゃったんだよ。こんなの鬼道じゃない。いつもの鬼道じゃないよ…」


「あぁ、そうか。
わかったぞ、塔子」



鬼道はさっきからあたしの話に耳を傾けようとしない。鬼道の中で何が解決したのかもわからない。




「お前が、
足りないんだよ」






あたしが、足りない?




きっとそのままの意味なんだろうけど、今のあたしに鬼道のこの言葉は抽象的すぎた。



「共に来い。そうすれば、お前に最高の気分を味あわせてやる」


弱き者をねじ伏せる瞬間は、実に愉快だ。


そう言いながら笑う鬼道の顔は歪んでいた。




「あたしが鬼道と一緒に行ったら、鬼道は救われるのか…?」



「その通りだよ、塔子。
お前が来てくれなければ、俺は一生この暗闇の中から出られない。俺は一生救われないんだ」




だから、さぁ早く





あたしは震える手で差し出された鬼道の手をとる。

あたしなんかよりも何倍も冷たく震えている鬼道の手に思わず涙が出そうになった。


その瞬間、初めて鬼道の瞳にはあたしが映し出された。



泣きだしそうな深紅の瞳を放っておくわけにはいかない。
あたしは鬼道の手を力一杯握りなおした。






あたし達のことをまるで馬鹿にしているかのように、黒い雲は冷たい雨粒を落とす。



(お前も堕ちろ、)








まだ、間に合う


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