泣きながら笑顔でお別れを



「君たちに、……遺せるモノが何も無い僕を……、許してくれ…」

白いベッドの上で、青年は途切れ途切れに言葉を紡ぐ。

その顔色は、まさに死期を帯びたソレで
しかしそれでも、穏やかに優しげな眼差しを傍らにいる少年2人に注ぐ


「そんな………!先輩っ、そんなこと言わないで下さいっす。い、いつも余裕で完全無欠な中智先輩らしくないっすよ。」

青年の後輩らしいまだあどけなさが残る少年は、そう動揺を隠すように必死に笑ってみせる。


「……本当に、……君たち2人に……僕は、何も……してやれなかっ……げほっ」

言葉の途中で、激しくせき込む青年に少年は、不安の色を見せ
青年の背を慌ててさする

「だ、大丈夫っすか先輩!!?」

そんなに重い症状なのだ、彼の命の灯はまさに今この時を刹那としながらえている。

彼は、ぐっと拳を握り締め
傍らでただ立っているもう一人の少年を見上げて話し掛ける。


「先輩……、大丈夫っすよ………。ね、志軌………、お前もそう先輩に言ってくれっす」


「……………」


もう一人の少年は、その呼び掛けにただ静かに顔を背ける。


彼もまた知っているのだ、
その励ましも気休めにしかならないと


「……………良い、人生だった……。
君たち……、素晴らしい後輩を………2人も持った……。」


ほうと、苦しげに息を吐き
まさに最期の言の葉を彼は紡ぎ出そうとしている。


「そんな…!最期のお別れみたいな事言わないで下さいっす!!自分っ、先輩がいないとっ……」

そこからは、言葉にならず
少年はただただ泣き崩れる。





「……君たち2人には、………何も遺せるモノがないが………ただ、僕の遺志を継いで欲しい………。」




僕がいなくなっても、
……あの部を……頼む。





最期に、青年はそう微笑み
静かにその時を止めた。








残った病室には、ただすすり泣く少年と立ち尽くし途方にくれる少年の姿があった。



泣きながら笑顔でお別れを
最期に瞳に映すのは、君が良い。

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