心が無理なら、心臓がほしい
こぽり、こぽり・・・
静かに何かを茹でる音が木霊する。
「ねえ・・・今日はいい天気だよ・・・。飛龍の好きなちょうど過ごしやすいくもり空だ・・・」
閉め切った部屋の中、見えもしない外の様子を少年は嬉々として相手に伝える。
「・・・・・・・」
「今日みたいな日には外に出てみるのもいいかもね。ピクニックとかハイキングとか楽しそうだ。昔みたいに小川で魚釣りってのもいいよね。まあ、飛龍と一緒ならボクはどこだろうと何しようと愉しいんだけど」
「・・・・・・」
「懐かしいよねえ。ボクタチ兄弟なにするときもどこにいくにも一緒で。片時も側を離れなかったよね」
「・・・・・・・」
そこで、少年はふと虚ろに天井に向けていた瞳に鈍い光を灯らせた
「・・・・いつか、飛龍は言ったよね。お前の事が何よりも大事"だって。」
「・・・・・・」
「・・・・あれ、嘘だよね」
「・・・・・・・」
「だって・・・・・、飛龍はボクのいう事聞いてくれないんだもの」
「・・・・・」
「・・・だからさ、」
心が無理なら、心臓がほしいそれで、お前の気が済むなら。少年は薄く笑いその頬についたモノをぬぐい、舌でなめとった。
−−そう閉め切った部屋の中には、どす黒く染められた赤色とうつ伏せに倒れこむ兄の姿があったのだった。
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