07


 お昼の時間はわたしがエスカバを引き連れてバダップのところへ突入しにいくのがお約束になっていた。初めてのころのようにギスギスした雰囲気はない。まあバダップはほとんど無愛想で、堅くなに口を閉ざして本を読んでいるだけだけど。本当にときどき、ここにミストレが加わるようになった。ミストレはバダップと違って、いろいろと話してくれるから、ミストレ、エスカバともに会話がはずんだ。まあミストレの場合いるだけで華やぐ。こいつは学園ドラマでよくでてくるマドンナか。男なのに恐ろしい。しかしミストレが加わるようになって、一つ問題が起こった。ミストレの親衛隊の女の子たちからの評判がひどいらしく、わたしの周りはひそひそ話で絶えなかった。転入生でもあるぶん、生意気って思われてるんだろう。おそらく聞こえないように話しているけれど、地獄耳のわたしにとっては全て筒抜けである。ミストレがあまりに人気すぎ、そしてわたしの生活態度やその他もろもろが気に喰わないからこのようなことが起こったんだろう。だけどわたしはたいして気に止めなかった。陰険な態度には胸糞悪くなったけど、奴らに取り入ろうとするつもりはさらさらなかったし、別に嫌われててもよかった。だってわたしはあいつらのことが嫌いだったから。誰からも好かれるような愛嬌も器量もないから、かえって孤立しているほうが楽だった。

 休み時間、廊下の窓際に立ってエスカバと他愛もない会話をしていると、またもやひそひそ話が聞こえてきた。ミストレもそうだが、バダップとエスカバも優等生なせいか、意外と人気が高く、わたしへの誹謗中傷は肥大化していった。陰険な悪口を小耳に挟んでいると、ふとエスカバが呆れながらも意地悪く笑った。

「お前もひどい嫌われようだな」
「人気者はつらいってやつかな、でも面白いこともあるんだよ。あっミストレ!」


 ちょうどミストレが通りかかったので、彼を呼び止める。ミストレの親衛隊の女の子たちからの視線がわたしの体中に突き刺さった。しかしわたしは怯まない。それどころか親衛隊の女の子たちに向かって、ニヤリと厭らしく笑いながら中指を突き立てて、煽った。そのときの親衛隊の奴らの表情っていったら写真に取りたいほど呆気に取られていた。してやったとクスクスと笑っていると、ミストレは眉を下げ、少し困ったような表情をした。

「ずいぶん派手なことをするね」
「そう?わたしは自分が好きなようにしただけよ」
「あまり傷つけないでくれよ」
「そうだね、大事な親衛隊ちゃんたちだもんね」

 ちらりと親衛隊の奴らを盗み見る。ミストレは背を向けているから、こいつらの表情が見れないけれど、まるで般若みたいな表情をしてわたしのことを睨んでいた。わたしは楽しくて楽しくて思わず高笑ってしまった。

 それから数日後、一人で廊下を歩いていたときだった。突然、ミストレの親衛隊(わたしが中指をつきたてたやつら)に絡まれた。柳眉を逆立て、わたしを睨む。よーっく顔を見てみればたしかこいつら、王牙学園の女子生徒の中でも屈指の名家出身の子たちで、親族が偉い軍の役職についているとかそういうエリートの類で有名な人たちだった。毛並みのよい子たちからしたら、わたしはたいそう気に食わないだろうな。成績はいつも底辺にいて、不真面目で庶民ともいえない階級のわたしがこいつらの憧れの方たちと仲がいいんだもの。だけどわたしはこいつらのために自分を卑下する気なんてさらさらなかった。5人ぐらいの塊になっている親衛隊たちを睥睨する。

「こんなに大勢集まってどうしたの?」
「貴方が気に食わない、と思ったから直接文句をいいにきただけよ」
「へえ、文句なら好きなだけ聞いたあげるよ」
「なら遠慮なく言わせてもらうわ。貴方のこと軽く調べさせてもらったけど、たかが小国の傭兵という分際で図々しいのよ。貴方の居場所はこんなところじゃないでしょ?ここは選ばれたもののみが存在を許される王牙学園。貴方みたいなろくでなしの盆暗女がいてもいい場所じゃないわ」
「それに貴方の生活態度の怠慢さには呆れるわ。よくあんな態度ができるわね。いつでも不真面目でふざけていて、とても向上心が感じられないわ。貴方みたいな人がいるとこの王牙学園の風紀が乱れるの、わかる?一緒にいるバダップくんやエスカバくん、何よりミストレくんが不愉快な思いをしているのを承知であんな態度を取っているのかしら、呆れるわ」
「何もかもが気に喰わないのよ。何もかもね。この学園での生活に飽き飽きしてたところなんでしょ?ならさっさと出て行きなさいよ。目障りなの」

 次々と口からでてくる辛辣な言葉にわたしは天晴れした。こんなにまで不満が溜まっていたのか、と感心してしまった。やはりエリートだからこそ無駄にプライドが高い。しかしここではいわかりましたってこいつらの言葉に従うつもりなんてない。わたしは腕を組み、涼しげな表情をして言い返した。

「アンタたちがわたしに不満があるのは知っていたけど、別にわたしは治そうなんてかけらも思ってないから。自分の好きなように生活して何が悪いの?アンタたちを不快にさせようがさせまいが、わたしには関係ない。それに親衛隊親衛隊って馬鹿みたい。親衛隊っていってもただの取り巻きでしょ?あんたたちはミストレの何なのよ。彼女?友達?わたしは一人の友達としてミストレと接してるだけ。仲いいからって遠くからぐちぐち言わないでよね。自分たちのものにしたければミストレに首輪つけるぐらいしたらどうなの?そしたらわたしは手だししないわ。まあ、要は」

 わたしは中指を立てる。

「うざい」

 そういってニヤリと笑うと、親衛隊のやつらは目をかっぴらいて顔を歪めた。怒りのボルテージがどんどん上がっていくのを身にしみて感じた。貴方ねえ、と声を荒げたが、わたしの背後を見るなり、急にその威勢が萎んだ。こほんと息をついて、穏やかな顔してさようならと鈴がなるような声を流暢に紡いだ。そしてわたしに背を向けて去っていった。わたしは後ろへ振りむく。そこにはバダップの姿があった。わたしはバダップがここにいるとは思ってもみなかったので、とても驚いた。バダップはゆっくりとわたしに歩み寄ってくる。もしかして助けてくれたのか?いつも冷たいこといっときながら、わたしのピンチを嗅ぎつけ助けにきてくれたのか?なんだこれは、やっぱりバダップは最近流行っているツンデレってやつなの?

「バダップ……」

 わたしはバダップと向き合った。バダップは無言でわたしの瞳を見つめ、頭へと手を伸ばした。まさか撫でてくれるの?少しだけ胸が高鳴った。がしかし、そんなことあるわけなかった。バダップはそのままわたしの頭を鷲掴みすると、力をこめる。ぎりぎりと痛む頭にわたしは涙目になった。

「ちょっとバダップ!!痛い痛い!!」
「この前やっておけといっておいた課題は終わったか」
「へ?課題?あーっとえーっとそれはね……」
「お前の不真面目な態度のせいでオレの面目が潰れることだけはごめんだ」
「いたたたたたやります!今すぐやります!全力でやります!」

 わたしは己の頭からバダップの手をはずそうと必死に抵抗した。やっぱりそうだったか。こいつが優しいわけがない。期待したわたしが馬鹿だった。








   
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -