05


 王牙学園に入学して早一ヶ月、授業をサボって部屋で寝てたり、服装を自分なりにアレンジしてバダップに無言の圧力を喰らったり、いろんなことがあった。バダップも最初は無視したり、卑猥なものを見下すような冷たい瞳で睨んできたりとしてきたが、最近は堪忍袋の緒が切れたのか、行動に移すようになってきた。変なことをすれば容赦なく警察が犯人を捕まえるなかんじで地面に押さえつけられる。全く暴力はいけないと思う。

 しかしわたしもあまりに迷惑をかけてはいけないってちょびっとだけど思ってるから静かに過ごそうとした。窓に背中を預け、優雅に上品な面持ちでバダップから渡された参考書の一部を読んでいた。そのときちょうど、バダップが教室にやってきた。わたしはふふんと鼻を鳴らして、読書をしているところを見せ付けた。どうだい、わたしだってやれば出来るんだ。バダップはわたしの目の前まで来て、腕を組んでしばらくわたしを見下す。バダップのほうが背が高いので、自然とそうなってしまう。癪に障るがしょうがない。バダップに臆することなく、口角を上げるわたしであったが、バダップは見抜いていた。わたしの"嘘"を。

 バダップは無言でわたしから本を取り上げ、ブックカバーをはずす。その瞬間、わたしは顔色を青くする。ブックカバーは帝王学の真髄と明朝体で書かれているすごいお堅い本だ。しかし中身は最近そこらへんで流行っている娯楽漫画。バレてしまった。わたしは唇を噛んだ。ブックカバーさえ変えればバレないと思ったのに。頬に冷や汗をたらし押し黙っていると、バダップはわたしの娯楽漫画を片手に構え、その角でわたしの頭を殴った。まるで鈍器で殴られたかのような痛みだった。ものすごく痛い。殴られた箇所を両手で押さえて、痛みに悶えていると、頭上からバダップの声が響いた。ひどく苛立っている様子だった。


「真面目に本を読んでいるかと思えば、こんな小癪な真似をして」
「でも、本の角は痛いよ……あと漫画返して……」
「人に物を頼むときは言葉使いを気をつけるんだな」
「返して……ください……」
「ふん」


 バダップは鼻を鳴らして、わたしの娯楽漫画をゴミ箱へと放り投げた。思わずナイシュー!と拍手をしながら声援を送ってしまうほど、きれいな弧を描き、ゴミ箱へと吸い込まれていった。わたしは目をかっぴらして愕然とした。きちんとした言葉使いをつかって言ったのに、その好意を仇にするなんて。わたしは思わず歯軋りをした。そして心から怒りをこめて叫ぶ。


「鬼だバダップは!!!まさに鬼の化身だ!!!」
「疫病神のように厄介なお前に言われたくない。少しは静かにしろ。大人しく過ごしていろ。ルールを守れ。しかもあんな娯楽漫画、読んで何になる」
「娯楽漫画でも人生の糧になるの!!」
「それはお前だけだ」


 バダップはわたしの眉間に人刺し指を突きたて、グリグリと押してきた。傍からみれば可愛らしい光景かもしれないが、これは地味に痛い。しかもバダップは思いっきり力をこめてやってくるので、頭蓋骨がぐいぐいと圧迫される。痛いと両手を使って必死に手をどかそうとするが、びくともしない。わたしの眉間に穴が開くんじゃないかって思った。本気で。


 そして数日後の朝、わたしはのんびりと眠っていた。ベッドの布団を手繰り寄せ、それを抱き枕のようにしてぬくぬくとしていたときだった。いきなりドアから激しいノック音が聞こえ、わたしは思わず飛び起きた。こんな朝っぱらから誰だと重いからだを起こしてドアを開けてみると、般若のような形相をしたバダップが仁王立ちしていた。朝っぱらからホラーチックな体験をし、わたしは身の毛がよだった。バダップは低く地を唸るような声を出した。


「お前……昨日言ったこと覚えているか?」
「えっ?昨日?えっと、えーっと、えーっとねえ」
「朝礼があるといったはずだが」
「あっ!!」
「今すぐ着替えろ」


 鬼のようにギラリとした眼光を放つバダップに従い、わたしは急いでクローゼットへと走っていった。というか、なんでバダップが女子寮に入ってるんだ。わたしは制服に手をかけながら声を上げた。


「どうしてバダップが女子寮に入ってるの!?」
「お前を起こすために特別に許可を得た。他の女子生徒は皆もう大講堂へと向かっている」
「ということは、わたしだけなのか。オンリーワンは」
「ふざけたことを抜かしている暇があったらさっさと着替えろ」


 バダップはそういって外へと出た。あっなんだちゃんと配慮はしているんだと一瞬呆気にとられたが、時間がかかりすぎてはまたどやされる。制服を着替え、出ようとしたところで顔を洗い忘れていることに気づき、急いで洗う。髪の毛はしょうがないから寝癖のまま放っておき、外へと出ると、ドアの横で壁に背をあずけ、腕を組んでいるバダップと目が合った。朝日を浴びてキラキラと光る白銀の髪の毛は春の日差しを浴びる雪解けの氷のようでとてもきれいだった。見惚れていると、バダップは不愉快だったのか、眉間に皺を寄せて、さっさと行くぞと静かに唸った。


 碁盤の目のように規則正しく並び、息が苦しくなるような朝礼が始まった。立ちながら寝そうになったが、隣で身が凍てつくような恐ろしいオーラを出すバダップがいると、油断できなかった。たぶん立ちながら寝て、膝の力が抜けたりなんかすれば、後で刺されそうだ。朝礼では、偉い人が何やら若者は弱体化しているなどそのようなことを言葉を変えて繰り返し述べ、お前たちはエリートだ、と褒め称えた。わたしもエリートかあ、と胸を躍らせていると、わたしの心情がバレたのか、バダップからの視線が妙に痛かった。とりあえず早くエリートでも落ち零れでもいいから、早く朝礼、終わってくれ。ひたすら心の中でわたしは思った。







   
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