18


 寮に戻って、制服を脱ぎ散らかし、下着姿でベッドにダイブしてわたしは考えた。この前あんな事件起こしちゃったぐらいだからもうすぐわたしも本国に呼び戻されて"傭兵"に戻る。今まではバダップが指導係りとしていたから何も手を出してこなかったけど。お試し期間が終われば、あっちも何かしてくるだろう。もしかしたら双子の妹がきたのも仕組まれたものかもしれない。きっと教官たちは祖国に帰還した瞬間、いけないお薬を使ってわたしの自我をなくそうとするだろう。結局王牙学園にいても何も変わらなかったし。わたしがわたしでいられる期間はあと少し。わたしの寿命もあと少し。ぴかんと電球が頭に浮かんだ。何でわたしがやられなきゃいけないんだ。死ぬんだったら、この命を盛大に散らしてやる。何とかして80年前に飛ぶことができたら、RHプログラムを消せる。ということはこれを開発して傭兵の商業化なんて考えたクソ野朗共の存在を消すことができる。ざまあみろ。ニヤリとわたしは笑う。ナマエ様決死の心中作戦だ。80年前に飛ぶ方法は一旦寝てから考えることにして、わたしは頭の中にぐるぐると作戦をめぐらした。トチ狂ったプログラムを開発して特許申請とって今頃栄華を極めているボンボン共め、お前らが開発したわたしからの最大のプレゼントだ。


 過去に飛ぶことは法律上禁止されており、また学術的研究目的など小難しい特別な理由がない限りタイムマシーンの使用はできない。バダップたちはきっと学園の権力を使って過去に飛ぶだろう。ちくしょう。結局は権力かよ。前に冗談と本気を半分こずつ篭めた感じで「バダップの力でわたしを過去に連れてって」っていったら、鬼も凍りつくほどの鋭い瞳で睨まれた。バダップに頼むなんて到底無理だ。むしろ頼んだら、いろいろと探られて挙句の果てに墓穴を掘りそうだ。

 だとしたら、タイムマシーンを持っている学者に家に突撃して奪うしかない。幸い、学園の近くにキラード博士という人物の家がある。博士だからタイムマシーンぐらい持っているだろう。そうと分かればもはや突撃するしかあるまい。わたしは自室に戻り、黒で統一した服に着替え、拳銃を一丁持参し、夜更けにキラード博士の家に文字通り突撃した。チャイムを押して門番であるロボットが機械音声でインターフォンに出る。わたしは猫撫でした声で「お隣のものですが、惣菜を作りすぎちゃって……届けにきちゃいました!」というと、ロボットは簡単に了承し、ドアを開けてくれた。このロボットは機密とかそういう類の知能を搭載してないのか。ドアが開いてロボットと対立した瞬間、持ってきた拳銃を構え、ロボットの人工頭脳に数発打ち込んだ。火花を散らして崩れ落ちるロボットを尻目に、部屋へと侵入する。その間後々めんどくさくなりそうな機械に冷静に打ち込んでいく。キラード博士がいる部屋に突入する前に弾を補充し、ドアを蹴り開けた。そこには椅子に座り、ビックリしたのか口をあんぐりとあけてこちらを見つめるキラード博士がいた。キラード博士は警報を鳴らそうとしたが、わたしはそれよりも先にキラード博士に拳銃の照準を向けた。


「あんたの持ってるタイムマシーンをちょこっと使わせてもらいたんだけどいいかな」
「こっこれを民間人に貸すことは法律上禁止されていることでありまして……!!」



 有無を言わないキラード博士に拳銃を構えたままゆっくりと近づいていく。



「つべこべ言わず貸せばいいんだよ。撃ち殺されいの?」



 目的のためなら手段を選ばないのが本来のわたし。ギラギラとした瞳でキラード博士をにらみつける。至近距離に来られたせいか、彼は緊張して唾を飲み込んだ。再度彼が何か言おうと口を開こうとした瞬間、わたしが入ってきたドアから誰かが現れた。慌てて振り向くと、そこには赤いバンダナを額にまいた少年が唖然とした表情で佇んでいた。その少年が「キラード博士!」と叫んだ瞬間、わたしも「動くな!!」と叫ぶ。



「あんたが動いたらキラード博士の頭が」



 吹き飛ぶよ、と言おうとしたとき、少年の言葉がかぶさる。



「あっこの前会ったオーガ学園の人!!」
「オッオーガ学園なんですか?!」
「はっ?えっ?アンタ、誰……ってあーーっ!!」



 わたしは思い出した。前に一回公園であったことがある少年だった。まさかこんなところで再会するとは思いもしなかった。しかもわたしがオーガ学園の生徒だということもバラされてしまった。出来るだけ足跡が残らないよう、用心していたに……わたしはギリっと歯を食いしばる。赤いバンダナの少年は真ん丸の目をもっと丸くして、わたしを見つめる。それもそうだ。わたしは拳銃の銃口をキラード博士に向けている。赤いバンダナの少年の口がわなわなと動き、何か叫ぼうとした瞬間、銃口をキラード博士から彼に向ける。「黙ってろ」というと、赤いバンダナの少年は声を飲み込み、口を閉じた。これからどうするか、と考えたそのとき、キラード博士は口を開いた。


「このタイムマシーンは私の補助無しでは使うことが困難です。貴方が王牙学園とわかれば、こちらにも手はあります」
「どっちにしろここでタイムマシーンを使用させなきゃ、どっちもお陀仏だよ」


 わたしはキラード博士に銃口を向け、赤いバンダナの少年を流し目でにらみ付ける。キラード博士はひどく焦った様子だったが、声はしっかりとしていた。


「私たちはこのタイムマシーンを使って、故意的に変更させられそうな歴史を正そうとしています。そこにいる少年、カノンに協力してもらおうと思っているのですが、彼一人では心細い。そこで貴方にカノンの手助けをしてもらいたい。カノンを助けてくれた報酬として、このタイムマシーンを使わせてあげましょう」


 わたしがこの博士を殺してもタイムマシーンは使えない。カノンとかいう奴を脅して使わせたとしても、わたしが王牙学園である以上、タイムマシーンを使う前に学園に連絡されれば、わたしがお陀仏。ここはとりあえずこの博士の要求を呑むのが一番効率的だ。カノンとかいうやつを助ければいいだけだ。助けるっていっても適当にやればいいか。リモコンとってとか言われたら投げ渡せばいいし、悪い奴らに囲まれて助けてー!とか言われてもあちょー!とかほざきながら鳩尾に一発蟷螂パンチを食らわせればいい、そんなレベルの助けでいいだろう。要はタイムマシーンが使えればいいんだ。わたしは構えていた拳銃を下ろして言った。


「いいよ、その要求に乗ってあげる」


 キラード博士とカノンはほっと胸を撫で下ろした。わたしはそこらへんにあるテーブルに浅く腰をかける。


「んで、具体的にはどうすればいいの?」
「カノンと一緒に過去に戻り、カノンが危険な目に合わないよう、いろいろと面倒を見て欲しいのです」
「要するにボディーガードってことね。お安い御用だ」
「詳しいことは後日、メールで送ります。学園のメールアドレスでは少々不安なので、貴方の個人のメールアドレスはありますか?」
「傭兵時代に使ってたやつなら大丈夫。セキュリティ面とかは。ほら、そのアドレス」


 わたしは近くにあったパソコンのメモ帳を勝手に拝借して、そこに打ち込んだ。確かにここに長居するのは危険だ。派手にロボットとかを壊してきたから、近所の人たちが駆けつけたら面倒くさいことになる。拳銃を仕舞い、それじゃあとその場を後にしようとしたとき、カノンがあの、と口を開いた。ちょっと顔は強張っていたけれど、目は爛々と輝いている。


「よろしく!オレ、カノン!君は?」
「ナマエ、あのときはどーも」
「やっぱりナマエは王牙学園だけど、なんか違うね」
「殺されそうになったのに、妙に明るいね」
「何でだろう……ナマエは……なんか、悪い人ではない気がするんだ」
「ふーん……短い付き合いだけど、よろしく」
「ああ!よろしく!」


 わたしはキラード博士の家をこっそりと去っていった。家の被害については博士自身が嘘をついて誤魔化すだろう。そういえば何年前に飛ぶか、聞いていなかった。でも飛ぶ前に聞けばいいだろう。恐竜がいる時代とかに飛べたら興奮しまくるんだろうなー。でも、よくよく考えたら恐竜がいる時代に人間なんていなかったわ。それにしてもバダップたちは円堂守を駆逐しにいくといっていた。キラード博士は改変される歴史を正すためといっていた。この二つの事柄は深く関わってそうだ。もしかしたら、バダップたちによる歴史改変をわたしたちが止めに行く、ということかもしれない。あくまでわたしの仮説だけれど。面白いことになりそうだと、わたしはほくそ笑んだ。







   
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