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結局あれから秘密は聞けずじまいだった。エスカバに出会い頭に関節技をかけて口を割ろうとしたけど、あっちのほうが力が強いせいか取っ組み合いの末に逃げられてしまった。いやしかし、関節技かけてみて思ったんだけどエスカバはいい体していると思う。細い割に引き締まったいい筋肉。筋肉フェチが見たら涎を垂らすに違いない。エスカバが女にモテるにはその筋肉を曝け出せばいいと今度アドバイスしてやろう。


 わたしは今まで奴らの口から秘密を聞き出そうとしたけど、それは雲を掴むようなものだったと改めて思った。秘密を他人に簡単にばらしたら秘密じゃなくなる。ならどうやって秘密を暴こうか。わたしは放課後、エスカバたちを尾行することにした。わたしは尾行や潜入の類が本気を出せば得意だ。今までは面倒くさくて潜入中に携帯いじって遊んでいたけど、今回は本気を出すことにした。奴らは学園から少し離れた敷地にある虫の甲羅のような灰色のドーム型の施設に移動する。この施設は教官や偉い人たちしか入れないものだ。怪しい匂いがぷんぷんする。当然正面から「ちわーっす」ってな感じで入れるわけがない。隠れながらドームの回りを一周し、わたしは通風孔へと繋がる鉄格子で塞がれた道を見つけた。鉄格子ぐらいだったら持参してきた特注のナイフの打撃で何とかなりそうだ。刃毀れしませんように。難なく鉄格子をクリアしたわたしはわたしのようなか弱い女の子一人ぐらいしか入れない隙間に体をねじ込ませ、這い蹲りながら進んだ。通風孔の中は埃臭くて、虫もネズミもいて最悪な環境だった。奴らの秘密ごときにどうしてここまで我慢しなきゃいけないんだと何度も心の中で怒鳴り、途中で諦めて帰りそうになったが、そう簡単にも帰れない地点まで来てしまったので、腹をくくった。

 そしてようやく、バダップたちがいるところへとたどり着く。そこはサッカーコートだった。いろいろと登ったりしていたせか、バダップたちが手のひらサイズになるほどの地点からその景色を眺めていた。バタップたちがサッカーをしている。その秘密を得られたのはよかったけど、ここだと肝心の話し声が聞こえない。しまったー。わたしは舌打をして奴らを睨みつけた。しかし、バダップたちを指導している教官が大声で盛大にネタバレをしてくれたおかげで、難なく秘密を暴けた。どうやら、バダップたちは過去に戻って円堂守を駆逐するらしい。円堂守といえば、どっかで見たような。わたしはニヤリと笑って、通風孔の道を戻った。埃と蜘蛛の巣が見事に絡みつき、髪もぼさぼさで見るからに戦争でも言ってきたのか、といいたいほどのひどい様相でわたしは学園を目指した。机にある学園のデータベースへと繋がるタッチパネルを叩く。円堂守と検索すると目の前を埋め尽くすほどの情報が出てきた。


 円堂守、80年前のサッカー選手だ。あっそういえば図書室の辞書に乗ってたな。しかし、わたしは円堂守がどんな人生を歩んだかとか、どんな人と結婚したかとかよりも"80年前"という単語に目を光らせた。


 80年前、それはわたしたちの祖国の傭兵のプログラムの基礎となる、RHプログラム、別名能力複製プログラムが作られた年だ。バダップたちが円堂守を駆逐するためには80年前の円堂守の時代に飛ぶしかない。もしもわたしも一緒にその流れに乗って80年前に飛べたら、わたしはRHプログラムを消せる。RHプログラムを消せば、わたしは存在しないことになる。わたしは背筋がぞっとした。恐怖と快感がぐちゃぐちゃに混ざって、ひどく感情が高ぶった。痛いし駄目だと分かっているのに、迫りくる急行電車の目の前に助走をつけて飛び込みたい気分だ。わたしはひとまずデータベースを閉じた。考えは先走るばかりだけれど、ここで安易に答えを出してはいけない。学園内をほっつき歩いて、人気のないベンチへと座る。木々に囲まれていてカップルたちがいちゃいちゃするにはもってこいの場所だった。考えすぎて頭に熱が篭ったわたしはベンチに寝転がった。そよ風が頬を撫でる。可愛くて美人で気前のいいお姉さんにいい子ねーっなんて撫でられてるみたいで気持ちが良かった。本格的に意識がログアウトしそうになったが、いつの間にかやってきたバダップに起こされた。奴はわたしの体にチップでも仕込んでいるのか。どうやらもう寮に戻るよう伝えにきたらしい。微風の中にバダップの微量の汗の匂いが混ざる。埃だらけの髪を掻きながら、わたしは立ち上がって寮を目指すことにした。先に歩き出していたバダップが突然こちらへと振り向いていった。


「もうすぐで指導官という立場が終わる。それを過ぎれば俺はお前に干渉しなくなるし、お前も俺に干渉する必要がなくなる」
「へえーそりゃよかった。煩い小言を聞かずに済むんだね」


 バダップの反応を見るため、厭味と冗談を混ぜ言ってみた。しかしバダップはいつもと変わらぬ氷みたいな瞳でわたしを数秒見つめ、目を逸らしそのまま歩いていった。何もコメントなしかよ!!わたしは心の中でつっこんだが、口に出してつっこんでもバダップはわたしへと振り返ることはなさそうだ。あんなに長い間熱い関係だったのに、ここまで呆気ないと何だが寂しい気がした。







   
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