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 バダップ、エスカバがこのごろ構ってくれない。構って!構って!って犬みたいに尻尾振って要求してるわけじゃないんだけど、反応が薄いというか、女の勘からしてどうやら秘密があるようだった。三人で仲良く遊んでたのに、いつの間にか二人だけで遊ばれていて置いてけぼりを喰らっているような感覚だ。女の子の友情で例えると、A、B、Cがそれぞれいて、(ちなみにCがわたし)CがいないときにAとBが「最近Cうざくなーい?」「それわかるー。あっCが帰ってきた。Cおかえりー」「Cのこと待ってたんだよー」みたいな感じでさ。ハブだハブ!!ハブられているんだわたし!!このわたしをハブるなんていい度胸してるじゃん。唐突に話が変わるけどミストレも最近関わってない。まあ、こいつの場合は必要以上にかかわりたくないからいいんだけどさ。しかしどうやらミストレはバダップとエスカバたちの秘密に関わっているようだ。ちょうど食堂へ行ったとき、ミストレと出会ってしまったのであいつらが隠している秘密を聞くことにした。背に腹は変えられない。二人用のテーブル席に座り、対面するわたしとミストレ。



「最近なんかバダップとかエスカバとか隠し事してない?どこかしら傷はあるし」
「さあ、知らないね」



 ミストレは優雅に紅茶を飲む。知っていてもお前に言うわけがないと顔に出ている。わたしは眉間に皺を寄せながら、鼻で笑った。



「知ってるでしょ。超糞ナルシストミストレさんにもあいつらみたいに擦り傷があるじゃん。わたしもあんたのその美しいお顔に傷の一つぐらいつけてみたい」
「それなら君の存在を忘れないよう、深い傷を頼もうか。つけられるかわからないけど」
「お望みどおり寝こみを襲ってやるよ。で、なんでそんな傷負ってんの」
「どうして喋る必要がある」
「最近バダップもエスカバもアンタもみんなわたしに隠れてこそこそ何かしてるじゃない!!それが気になるの!!」


 ミストレはカップをソーサーに置き、顎をくいっと軽く上げてわたしを見下した。
 

「オレのことを気にしてくれるのは嬉しいことだ。その調子でオレのことを考えてくれればいいよ。お前を悩ましてやまない存在になれるなんて光栄だ。もっと悩めばいい」



嬉しそうに蔑むその表情に一層イライラが募る。わたしは軽く舌打ちをし、頬杖をついてミストレを睨みつけた。



「だぁーれがアンタなんかのこと考えるか。あっそういえばアンタバダップに鼻折られたらしいね。わたしの鼻っ柱へし折る前に自分のが折られてどーすんの」



 ほんといい気味ーと一言付け加え、わたしは盛大に高笑いをした。ミストレの目はこいついつか殺すと訴えていたが、口元は綺麗な弧を描いていた。目元に涙を貯めるほど笑い疲れたわたしは一息つこうとした。その瞬間ミストレは少し前屈みになり、わたしの鼻を力任せに掴んだ。思わずフガっと鼻息が漏れる。ミストレは極悪非道の悪代官が平民を脅すときに見せるような笑みを浮かべていった。



「なんなら今すぐこの鼻を折ろうか」



 ミストレはわたしの小鼻をまるで鍵を開けるかのように強く捻り始める。折れるどころか千切りとれそうだった。わたしは渾身を込めてミストレの顎にアッパーを喰らわす。ぎりぎり避けられてしまったが、やつの顎を少し掠った。わたしはニヤリと笑った。



「あんたなんかに折られるわけないでしょ?図にのんなバーカ、このカス!!キモナルシスト!!」
「ちょっと!!私たちのミストレ様になんてこというの!!」



 わたしの挑発にミストレよりも先に偶然近くにいた奴の親衛隊たちが乗ってきた。全くこいつらめんどくさいな。



「うっさい雌豚共を釣ったつもりはないんだけど。ミストレ、自分の親衛隊ぐらいきちんと躾つけときなさいよ」



 この発言がまたさらに火に油を注いだせいか、その後わたしVSミストレ親衛隊のバトルが続き、結局秘密を聞けずに終わってしまった。



 それから時が流れ(といっても数時間程度)、わたしはレポート作成に苦戦していた。バダップに図書室に拉致され、椅子に縛り付けられていた。わたしは大欠伸をしながら適当に紙辞書を捲る。



「辞書は投げるものだって教わった。これも意外と鈍器になるんだよ。重くて持ち運びにくいけど非常時のときは枕になるし、座布団みたくもなれるし。紙を破けば鼻だってかめるし、本当に辞書を開発した人ってすごいよね。こんな多機能を備え付けるなんて」
「お前は正しい辞書の使い方を学べ。それと早くレポートを書け」
「はいはい。イエスイエス。イエッサー。アイムオーケー。ベリーオーケー。書きます書きます」



 そういってわたしはレポートとは全く関係ないページを開く。



「えーっと80年前……の歴史……円堂守がサッカーを……ダメだ三行以上長文が続くと目の前が真っ暗になる。これは病気だから一刻も早く自室で寝るべきだよ」



 ふう、と溜息をつきながら顔を上げた瞬間、旋毛に辞書の角がヒットした。わたしの頭に痛みと衝撃が迸り、両手で殴られた箇所を押さえた。



「ったあああああ!!!辞書は武器じゃないっていったじゃん!!!」
「致命的な馬鹿に対しては辞書はこう使用する」
「怪我したらどうするの?!慰謝料取るよ!?」
「あんな大怪我しても寝たら治る貴様だ。このぐらい軽傷にも入らないだろう」



 バダップはそういうと鬼さえも怯むほど鋭い睨みを利かせてきた。無言の圧力。早くレポートを仕上げろと。わたしは歯を食いしばりながら、シャーペンを握った。






   
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