15


 今までそれほど生きたいって思ったことはなかった。死んだら死んだでわたしの人生はそこで終了。あーやっちまったぐらいしか考えないのかなって思ってたけど、いざ死に直面すると本能が勝手に頑張っちゃうらしい。施設からどう抜け出したか詳しく覚えていなかった。思い出そうとしても霞のように薄くて、とても曖昧。逃げて爆風浴びて、記憶が飛んだ。それから微かに覚えているのが、地上にでたときの太陽の輝きとバダップのあの表情。珍しく焦ってた。というかなんであいつ手当て受けてないんだよ。お前が死ぬぞ。なんて言おうとしたけどまた意識がぶっとんで、次に見えたのは病院の白い天井。ベッドにいて体中に包帯が巻かれていて、顔まで巻かれてたからミイラみたいだった。腕についてる点滴を抜きさって、頬にあるガーゼを剥がす。お顔を怪我しちゃうなんて女の子として失格!お嫁にいけない!なんて思って近くの机に置いてあった手鏡を見てみたら見事に完治。ついでにお嫁にもらってくれる人なんていない。なんだ、何にも心配ないじゃんって思ったらむしょうにむかついたので不貞寝した。というか結構重傷だったのにここまでピンピンしてるなんて、やっぱりバカは死なないってやつか。しばらくして病室に双子の妹が現れた。双子の妹はわたしの姿を見るなり、睥睨した。



「こんな怪我をするなんて、愚かね。片割れだと思いたくないわ……でもあそこから無事に生還できたのもある意味奇跡ね」
「死に物狂いで駆け回ってた傭兵生活が役立ったんだろうね。いやー助かった助かった」
「そう、人間らくしなったわね」
「元から人間だっての。で、これからどうするの、双子の妹」
「わたしはもうここを去るわ。対して利益はないことはわかったし」



 確かにここにいるよりは傭兵として働いていたほうが稼げるし、双子の妹のプライド的にここでダラダラ王牙学園で学生生活しているのは不満が溜まるらしい。まあ猫被ってるしなコイツ。わたしは後頭部に手を当てて、にやりと笑った。



「たぶん今度お呼ばれさせる紛争はとてつもないものらしいね。ご愁傷様。めんどくさいから墓は立てないよ」
「誰も死ぬなんていってないわ。貴方が生きれたんだから私も生き残れるに決まってる」
「でかい口叩くと後で痛い目みるよ。まあ、わたしはもう少しここで武人になるよう頑張るよ」
「別にそのまま人ゴミのゴミなってもいいのよ」
「いちいちうるさいな」



 厭味にチッと舌打ちする。双子の妹は窓際に行き、縁に腰掛け、空を見上げた。



「憧れていたかもしれない、普通の生活に」



 あまりにも沈んだ表情をしているので、からかう気が起きず、わたしは黙って双子の妹から目を逸らして、天井を見上げた。




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 双子の妹が去ってから入れ違いで花を携えたバダップが病室にやってきた。あのとき負っていた傷は見事に治癒し、ピンピンしていた。




「あんたはほとんど完治なんだ」



 そういうとバダップは花瓶から枯れた花を取り出し、新しい花に取り替える。こいつ、一応花とか買うんだ。しかもこの様子だとちゃんとお見舞いに来てくれていたんだ。へえ、なかなか気がきくじゃん。思わずにやにやしてしまった。しかし、バダップはわたしがどんな表情でも関係ないらしく、相変わらずの仏頂面のままで言った。



「どうしてオレを助けに来た。効率よく、無駄なく動くようこの前の戦闘理論の講義で習ったのを忘れたのか」
「ずいぶん言ってくれるわね。こーやってあんた庇って怪我したのに」
「……すまない、少し棘のある言い方をした。お前がきてくれたことには感謝している。しかしもう少し考えて行動しろ」
「はいはい」
「ナマエ」
「ん?」
「大事に至らなくてよかった」
「……」
「どうした?」
「いや、あの、鳥肌が立った……」
「そのような態度を取っていると信用をなくすぞ」
「よかった。それがいつものバダップだ」



 それから五日間が経ち、驚異的な速さで回復したわたしは明日退院することになった。いやー世界に誇る最先端の医療に感謝感激雨あられ。そういえば金平糖食べたい。袋に口添えてラッパ呑みみたいに。五日間のうちにエスカバが課題を携えお見舞いにきたり、ミストレが手ぶらでからかいにきたりしたけど、何だかんだバダップは毎日来た。指導官として責任を持っているからだろうか。さすが堅物。バダップは花瓶に持ってきた花を入れ替えるとき、ふと言った。



「そういえば、双子の妹はこの学園を去るそうだな」
「あっちもあっちで仕事がいっぱいあるからね」
「姉妹として、何も思わないのか」
「姉妹とか、双子とかいうけど、そんなほど関係がないというか、それ以上というか、兎に角複雑」
「複雑、というと?」
「よくコンビニとか行くと(こいつコンビニ行くのかな、まあいいや)同じ製品がいっぱい売ってるじゃない?あれと同じ。わたしと双子の妹は同じ人。あれだよ、あれーえーっとクローン技術ってやつ!まっわたしはこんなにも落ちぶれてるけどね。姉妹や双子っていうのも、それって家族って意味でしょ?でもわたしたちに家族はいないの。いるのは同じ顔をした人間」
「隣の小国ではそのような事業が展開されていたとはさすがに知らなかった」
「(あんまり傭兵のこと話すなって言われたけど、もうどうでもいいや)究極の傭兵を作るために人工授精して生まれた赤ちゃんを極限育成をして……ってかんじ。コンセプト……みたいなものはわたしたちを機転に改良された新たな種の傭兵が生まれ、いつしか商品として各国の紛争へと売りつける。あと数十年もしたら、世の中わたしだらけになるかもよ……うわっなんかぞっとした!!」
「なるほど……それで、お前は双子の妹と同じく有力な傭兵として育つはずだったが、どこかで道を踏み外してここまで転落したというわけか」
「そうそう、そうなんだよね……っておい!!」



 理論的に考えて納得するあたりバダップらしい。転落して悪かったな。バダップは腕を組んでいった。



「それで、どのようにしてあの状況を切り抜けてきたんだ」
「……本能?」



そう答えるとバダップは顔を顰めた。慌てて言葉を追加する。



「最初から戦いは喜びだ!!とかいう迷惑な本能が体に埋め込まれているらしくてさ、それで強くなって生き残れた。でもわたしの場合本当にごく僅かした発生しないらしくて」
「そのような才能を持っていて何故活用しない?」
「ロボットになるなんてごめんだね!だから傭兵の中では落ちこぼれ。昔からいろいろと遊びほうけてたら、見事に道を踏み外してね。こんな風に馬鹿扱いされて王牙学園にぶち込まれたわけ。学校生活って楽しみにしてたのに、まさか仕官学校とは思わなかった。まあ、アンタならこんな考えのわたしを弱者とみなして軽蔑すると思うけど」
「お前がそのような境遇だとは知らなかった。確かに辛辣なものだと思うが、闘いの運命から逃げてはいけない。逃げても意味がないだろう。闘わなければ国は強くならない。闘わなければ何も得られない。オレは自らその道に進もうとしている。だから逃げ出そうとは思わない」
「そういうと思った。あんたってほんと堅物だね」




 わたしは少し身を乗り出して眉間の皺にデコピンをかました。バダップは面食らったが、すぐに再び皺を寄せる。ぶんぶん飛び回る蝿を煩わしがるような表情か。わたしは蝿か。だけどしょっちゅうバダップはこんな表情してるから、今更あーだーこーだいうこともないか。わたしはフンと鼻を鳴らしていった。




「あんたを庇ったこのわたしに感謝してよね」
「不真面目のお前に庇われるなんて一生の汚点だな」
「ほっんと可愛くないな!!!」







   
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