――手を加えずとも芽吹く種の、在処をしかと知ったとき。


 どうやら左の胸に一つ、種を抱えていたようだ。色も形も、咲く花も、この目で見ることは叶わないが。それでも僕の中ではそれが絶えず動いているし、近頃はよく、ここにいると言うように揺れている。水もないのに、育つ、育つ。いっそ本来の姿を、取り戻してでもいくように。
「カミルくん、あのね、薔薇が初めて咲いたの」
「おめでとう」
「うん。一輪しかないんだけど――カミルくんに、もらってほしい」
 不慣れな仕草で、棘を払って。差し出された象牙色のそれは、身に染みたはずの甘い香りをとても鮮明なものに思わせた。ありがとう、どういたしまして、大切にするよ。
(嗚呼、)
 不確かに揺れる心臓に、咲く花一輪。


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