―――会いに行きたい回数に、生まれる理由が追いつかなくなったとき。


 季節の始まりは好きだ、花の種を買いに行かなくてはならないから。いつも走らせる荷馬車を少しだけ遠くに停めて、晴れた空の下で育て方を聞きながら種を選ぶ。花が育った朝も好きだ。綺麗に咲いた花と少しだけ小さい花を持って行くと、アドバイスと一緒に微笑って褒めてくれる。大切に育ててくれているんだな、ありがとう。言葉の数は多くなくても、だからこそ記憶に留めておける。それが嬉しい。雨の日も好きだ。買い物に行くと、パラソルの下に入れてもらえるから。カウンターを挟んで向かい合うばかりの人だから、隣り合うと目線の合わせ方にさえ戸惑うけれど、時々雨音から私の声を拾おうとするように、ふいに背中を屈める。
「……どうしてる、かな」
 今日は晴天、畑に変化はない。隙間なく伸びた苗の先の蕾は、まだまだ咲きそうにないし空は青くて雲一つない。穏やかなはずのこんな日に、思い出すのはあの人のこと。買い物も用事も相談もない、今日は会いたいことに添えられる理由が何も見つからない。見つからないと分かりきったものを探して、五分とかからない距離を埋める理由を、もう一時間も考えている。
 ああ、どうやら恋みたいだと、確かめるまでもないくらい分かっているから、今少しだけ通り雨を望ませてほしい。


[ 8/19 ][*prev] [next#]



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -