―――言えないことも恋のうちと、君が教えてくれたとき。


 どうにも不可解な躊躇いを抱えている。抱え込んだ理由も、碌に分からないままで。暗号が先か答えが先か、解くが早いか暴かれるが早いか。そこまで考えて思うことはただひとつ。そもそも、暴かれるとは何を。
「やあ、リオちゃん」
「センゴクさん」
「元気だね」
 こんにちは、と。絶え間なく動いていた足を勿体ぶることもなく止めた彼女にそう笑えば、密かな胸の循環は息を潜めた。この感覚はもう何度目になるか。彼女と話すとき、俺の中にある感情は何故だか、揺れという揺れを抑え込もうと必死になるようだ。ああこの不安定には、覚えがある。情熱のような、それを阻む温い水のような、その内から滲む炎のような。
 ―――嗚呼、何だ。
「……君は、健全だなぁ」
「はい?」
「縒れたおっちゃんには、快活さが眩しいよ」
 彼女の、俺を見るときの曇りのない眼差しが。真っ直ぐだから、尚更曇るなんて恋以外の何だと言えるだろう。じっと見つめても、伏せられも逸らされもしない眸にふっと笑いが漏れる。
 どうやら彼女に惹かれているようだ。だからこそまだ、今は何も言うまい。差し向けたこの紅色の感情がせめてもう少し、跳ね返りを感じるようになるまでは。


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テーマ「人外ファンタジー」
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