―――無色透明が目に煩くて、限界だ、と思ったとき。


 ダイヤモンドって、憧れちゃうな。そんな必ず耳に届く声で、目を背けて独り言のように呟いた、我ながら寒気のするような強請り文句に。馬鹿がつくほど人の好い男が一人、躊躇う素振りもなく言った。ああ、そうなの。じゃあ、今度あげるよ。おはよう、とレストランに入ってくるときと何ら変わらない、朝のメニューを眺めているときのような顔で。
 冗談だと思ったのだ。どうせその今度は永遠にやってこない。そんな確かめ合うまでもない理解を共有しているつもりで、私は言った。その言葉、嘘にしたら嫌いになっちゃうんだから。
「……バッカじゃないの……?何考えてるのよ」
 テーブルの上にうつ伏せて、もう何度目か分からない悪態をついた。安いレースのコースターの上には、透明に光るダイヤモンド。去年の誕生日の分だとでも思って、と、何の小細工もなしに渡されたむき出しの宝石をこの手に残して、彼はまた仕事があるからとさっさと町角へ消えていった。礼を待つ気配もなしに。
「……食えないバカは、嫌いよ」
 ぽつりと漏らして、腕に顔を埋める。どうしてあんな、安易な強請り方をしたのだろう。もっと脆い、手に負える宝石にすればよかった。ダイヤモンドなんて、煮ても焼いても壊せない。手っ取り早く忘れたくても、粉々にする手立ては、見つからない。


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