―――耳を塞いでも流れる音楽が、こんなに傍にあったのか、と思ったとき。


 それは今までに俺が愛してきた、どんな音色とも違っていた。雨音のように淑やかではなく、風のように勇ましくもなく。天にも地にも、果てはこの宙にさえ属さない、個の音色。
「ミハイルさん?」
「……やあ、サト」
 ―――人はそれを、声と呼ぶ。
 湖に向けて閉じていた瞼を開き、駆け寄ってくる彼女に薄化粧程度の笑みを向けた。鼓膜の奥で響いていた声とたった今呼ばれた自分の名がリンクして、風に乗って円を描く。俺は手にしていたヴァイオリンをそっと、体の後ろに隠した。今だけは、例え彼女の頼みであっても弾くわけにはいかない。今日は何をイメージして弾いたんですかと、きっといつになく甘やかな音色に首を傾げられて、言葉をなくしてしまう。


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