―――無力になりたい、と願ったとき。


 積み上げてきたものを底からひっくり返したいと思うなんて、考えたこともなかった。築いてきたものを一思いに踏み潰して、壊して、瓦礫も残さないで、何もかも手放して。
 まっさらになれたら、いいと。そんなことを願う日が来るなんて、思いもよらなかったのに。
「魔法使いさん、こんにちは」
「……こんにちは」
 俺が俺であるすべての蓄積を、今ここで壊して。零になって無垢になって無知になって無力になって、そうしたら例えば今も、君に名前を呼んでもらえる。



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