―――貴方のことを語り継ぐために、貴方より長く生きられることを喜んだとき。


「よっ、女神さま。大丈夫か?」
「ユウキさん」
 背の高い草を踏み越えて、今日も彼がやってくる。深い落ち葉色の髪と、人懐っこい口調が相も変わらずだ。自然と笑みが零れて、はい、と私も答える。
「緑の鐘の在処、もうすぐ分かりそうだぜ」
「まあ、本当に?」
「おう!俺があんたに嘘ついたことなんか、ないだろ」
「ふふ、そうでした。……頼りに、させていただきます」
「任せておけよ」
 彼は、すごい。不思議な人だ。巻き込んでごめんなさい、無理を言ってごめんなさいと言うよりも先に、傍にいるとその人柄に引っ張られて思わず笑ってしまう。ありがとう、お願い、と。願いを叶える私の甘えを呑み込む、魔法の人。
「また明日、来るからさ。ああそうだ」
「はい?」
「これ、女神さまにプレゼント。ここって綺麗だけど、花が咲いてないんだよな」
 たまにはこういうのも、見たくなるんじゃねぇの。
 差し出された黄色の花を反射的に受け取れば、彼はいつもの調子で似合う似合うと満足げに言って背中を向けた。
「じゃあね」
 軽やかに片手を上げて緑の向こうへ消えていった、その後ろ姿が。今このときもこの大地を支えているなんて、誰が想像するだろう。
 きっと誰にもそれを語らず、歩いているのであろう彼のために。いつかすべてが上手くいったら、私はそれを語る語り部になりたい。ユウキという青年の、伝承を語る女神になって。彼の生きる近い未来にもその先の遠い未来にも、その名を継ぐ存在になりたいと、切に思った。


[ 13/19 ][*prev] [next#]



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -