―――私が女神さまだったらよかったのに、と思ったとき。


「お綺麗ですね、クレアさん」
 一年に一度だけ、この人は私の態度や生活でなく、私そのものを褒めてくれる。たった一言だけれど、それが何より嬉しくて。気づけばいつか、春の訪れは肌より先にその言葉で感じるものになっていた。春の月、女神祭。
「どれくらい、ですか」
「ううん、そうですねぇ」
 一年に、一度くらいだから。もう少し深く聞きたがっても許されるだろうか。身を翻されそうな不安と平均台の上を歩くような期待を綯い交ぜにして訊ねれば、彼は少し考えるような素振りのあとで、微笑んで言った。
「私の目が盲目であったなら、その指をとって、キスをしたかもしれませんね」
 ああ、賢い人。どのみちその目が見えなかったら、あなたが私を女神と見紛うためのドレスも見えないのに。
 いっそ私が本当に、本物の女神さまだったなら。彼はその口づけを躊躇わず、私もまたそれを乞うことを恐れないのかも、しれない。


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