少しばかり寂れた駅のホームで椅子に座っていると、アイツは約束の時間通りに現れた。
 電車の扉が開き、彼が車外へと足を踏み出した瞬間に、空気が研ぎ澄まされたかのように感じた。何故だか、無駄に存在感が有る男なのだ。
 よっ、と短く声をかければ、向こうもこちらを見て、幾分、表情を和らげた。
「久しぶり」
 南沢が月山国光へと転学をしてから、初めて、サッカーという要素を抜きにした再開だった。





「稲妻町も懐かしいなあ」
「懐かしいって、この前来たばっかだろ、あのごっついキーパー連れてよ」
「あのときは練習が目的だったからあんまり観光とか出来てないし……あ、これ買おうかな」
 南沢が嬉々として洋服を選ぶ姿を横目に見ながら、俺は売り物の帽子を手に取った。色も形も洒落ていて、コイツに似合いそうだなあと考え、また棚に戻した。
 
(中略)

 南沢とは、数回、殴り合いの喧嘩をするくらいには気が合わなかった。それでも、本音をぶつけ合える仲だと感じていたし、一番の友達だと思っていた。
 ところが、南沢は転校をする際、俺に理由を打ち明ける事は無かったし、俺も、南沢がいなくなって物足りなさを覚える半面、困りはしなかった。
――――なあ、南沢。俺、お前の友達になれてたか?――――
 そう聞こうとしたところで、やめる。らしくない。
「なあ、車田」
「なんだよ」
「俺、高校、○○に行こうと思ってるんだよ」
「イイじゃんかよ。お前の頭なら余裕だろ」
「……お前は?」
「○△になるだろうな。ランクからすれば」
「え……あ、そうか」
 南沢が妙に苦い顔をした。
「なに、お前、同じ高校、受けて欲しいのかよ」
 南沢は、さあ、と曖昧な返事をした。
 ……俺は、もう少し、勉強を頑張ることにした。
 気が付けば、目の前には寂れたホームが有った。何故だか、朝よりもずっと、淋しく見えた。
 日が落ちて、風にも冷たさが紛れている。
 俺と南沢は、ろくに会話もしないくせに、とても近い距離で肩を並べていた。
「お前だけだと思う」
 突然、南沢がそう言った。
「俺の顔を殴れるの、お前だけだよ」
「……バカか」
「お前に言われたくない」
「なっ」
 思わず南沢の方を見たが、その横顔がどこか楽しそうなものだから、俺も毒気を抜かれてしまった。
 そうこうしているうちに、風圧を連れて、電車が到着した。扉が開き、南沢はとんっと、車内に乗り込んだ。
 くるりとこちらを振り向き、気取った笑顔を見せる。
「車田、またな」
「おう」
 次第に左右の板が合わさり、扉はぴたりと閉じられた。電車が少しずつ、ゆっくりと、奥へ、奥へと進んでいく。
 やがて、車窓が遠くなり、南沢の姿は見えなくなった。
 相変わらずホームは寂れているし、風も冷たいけれど、今は、それも悪くないように思えた。



2013/03/29



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