・R18
・生理とエロ
・挿入はありません。










「山菜、朝から具合が悪そうだが、どうかしたのか」
「……やだ、わたし、顔に出てたの。シンさま、ごめんなさい」
「謝る事じゃあないだろう、それに」
 言葉を切ると、シンさまはわたしに少し近付いた。滅多に訪れないこの距離で、シンさまは何かを確かめているようだった。やがて、シンさまは確固たる自信を身に付けて、私に告げたのだ。
「生理だろ」
 わたしはシンさまのその一言に心臓が跳ねた。同時に、わたしの見えない場所で、また、一つの塊がドロリと這い出たようだ。
「ごめんなさい、二日目で、血が、多くて、匂いが」
「だから、山菜が謝る必要なんてないんだ。俺が他人より、気にしているだけだよ」
 シンさまはわたしの頭を撫でて、それから優しく微笑んでくれた。わたしはシンさまの笑顔に胸が熱くなり、鼓動が高鳴った。
 けれど、それと同時に、深い疑心を抱いた。シンさまは、優しくて、わたしの憧れで、画面の向こう側にいる、手の届かないような存在。そんなシンさまが、わたしを見て、わたしを気遣い、わたしに触れたということは、何か、裏が有る。何か、この、砂糖菓子のようなもので組み立てられたような甘い一瞬への対価を求めている。
 そうして、わたしの懸念は覆されることなく、シンさまの口から紡がれていく。
「山菜、断ってくれても構わない」
 シンさまはわたしの頭から手を引き、わたしの目をまっすぐに見た。
「女性の月経に興味が有るんだ。良かったら、見せてくれないか」
 シンさまは、良かったら、の部分をひどく強調して言った。これは、シンさまが見るのではない、わたしが、見せるのだ。
 シンさまから、とんでもない要求をされているというのに、わたしは何故だか、嬉しくなり、笑ってしまった。





「はい、シンさま、どうぞ」
 わたしは躊躇わずに両手でスカートを捲りあげた。外で、学校の敷地内で、馬鹿みたい。思わず、ふふふと声が洩れた。
 そうして、驚くことに、普段、毅然としているシンさまは地べたに跪いた。わたしはシンさまのつむじがよく観察出来るこの状況に感動しながら、さて、どうするのかしら、と考えた。
 すぐに、シンさまはサニタリーショーツに手をかけると、慎重に下ろしていった。今日の血は、増して、粘度が有るのだろうか、ナプキンと股の間で赤い糸が引いて、離れる感触がした。
「……すごい」
 シンさまが畏敬を孕んだ声で呟いた。
 気を良くしたわたしは、片手でスカートをまとめると、空いた右手を恥丘に添える。もう少し奥に指を押し進め、血に塗れるのも構うことなく小陰唇を、シンさまに見せ付けるように開いた。
「シンさま、見える?」
「ああ、山菜」
「なあに、シンさま」
 シンさまは私の太股に手を乗せた。
「舐めたい」
 シンさま、そんなことをしたら、シンさまの綺麗な歯が、汚れちゃう。
 言うべきことは、そういうことでは無かったと思う。けれど、わたしは、それすらも言えずに、ただ黙って、こくりと、一回、頷いただけだった。
 シンさまの顔が、わたしの秘部により一層近付いて、内股に生ぬるい息があたるのが分かった。
 やがて、シンさまの鼻先が押し付けられ、シンさまの唇と、わたしの下の口が、深く深く合わさった。
――――わたし、これ、知ってる。クンニっていうもの。でも、歯があたったり、舌がぬるぬると動く感触が伝わるだけで、まったく気持ちよくならない。それどころか、シンさまにわたしの膣を舐めさせるだなんて、罪悪感でいっぱいだ――――
 もしかすると、シンさまは、わたしの血を舐めとるように見せかけて、わたしに罪でも、塗り付けているのかしら。
 ズズッ、とシンさまに似合わない啜る音や、粘着質な水音を聴きながら、わたしは、自分のお腹を刃物で割いて、じくじくと痛む子宮を直接にぎり潰したくなるような衝動に耐えていた。
 眼下に映るシンさまの鼻先や口元にはべったりと、わたしの穢い経血が張り付いていた。シンさまの肌が、わたしの排泄物にまみれているという絵に、わたしは泣き出しそうになるくらいの自己嫌悪と、歓喜と、恍惚で胸と頭が痛くなり、終いには、どうしようもないほどの、シンさまへの愛が込み上げた。
 わたしは欲求に従って、恐る恐るシンさまの髪に触れた。
 シンさまは、これといった拒絶を見せることはなかった。なので、私は、ゆっくりと、シンさまの髪を梳いた。
「山菜」
「はい、シンさま」
 シンさまは性器から顔を離し、わたしの腹を手のひらで撫でた。
「不思議だな、保健の教科書で、中身は分かっているはずなのに、子宮には、まるで、深海が潜んでいるようだ。この中に、まだ見ぬ未知の生物や、誰にも解き明かせない謎が游いでいる気がするんだ」
 この瞬間だけ、シンさまは女性器を崇拝しているように見えた。シンさまは、冒険家や、学者のような気持ちで、血の海を掻き分けて、子宮の正体を探っていたのかもしれない。
 でもね、シンさま。子宮は、ただの空洞だわ。何かが游いでいるとすれば、それはゴミに違いない。
 ごめんなさい、シンさま。
 あなたの望むものが入っていない身体でごめんなさい。ごめんなさい、シンさま。
 わたしは心のなかで謝りながら、ポケットティッシュを取り出すと、シンさまの顔を拭いた。血は不恰好に伸びるだけで、ちっともぬぐえなかった。





 グラウンドを走るシンさまと目が合った。シンさまは誰にでも向けるような笑顔を作った。わたしは、その笑顔が愛おしくて、目を細める。
「シンさま、がんばって」
 わたしの隣にいたミドリちゃんが、そんなんじゃ聞こえねーよ、と毒を吐いた。
 でもね、ミドリちゃん。
 聞こえてても、聞こえてなくても良いんだよ。シンさまがそこに存在して、わたしはシンさまを見ている、それで良いの。
 もしもシンさまが怪我をしたら、わたしが抱き締めて、その血を吸い付くしてあげたい。そうして傷が癒えたなら、わたしを紙でくるんで、捨てて欲しい。
 わたし、使い捨てのナプキンで良いの。
 どうせ、そのくらいにしか、ならないんだもの。





2013/3/19
別題「ナプキンほど安全に私をくるめるものなど存在しない」



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