・R15
・お金持ち社会人×ビッチ中学生
・要するに援交








 今日寝た男は最高だった。
 顔も良ければ羽振りも良い、優しい手付きも嫌いじゃない。とにかく、ここ最近、否、今までで一番と言えた。また、電話がかかってこないかなとぼんやり願う。

 南沢篤志は、中学に上がる少し前からふらふらとしていた。切っ掛けは満員電車と言えよう。当時の友達と彼は少しばかり遠出をしようと電車に乗り込んだ。アイドルのコンサートでも有るのか、余りにも多い人の中で彼は揉みくちゃにされて友達とはぐれてしまった。
 まあ、降りる駅は分かっているし。
 そう思い、別段、焦らなかった彼は次の瞬間、ビクリと肩を揺らす。ショートパンツを履き、剥き出しになっていた太股を誰かが撫で上げたのだ。
 最初は偶然だと思っていた彼も、徐々に意思を持って動き始める手に、これは痴漢であると確信を持った。彼が抵抗をしないと判断した無骨な手はエスカレートをして、ついには幼い性器にまで伸びた。
 そうして、彼がそのとき感じたものは、嫌悪ではなく、歓喜だった。
 痴漢にではない、自分の身体に、商品価値があると言う事への悦びだった。

 それからと言うもの、南沢は男女問わず、引っかける事を覚えた。家を窮屈に感じていた南沢にとって、それは一夜限りの欲とお金をぶつけて貰える素晴らしいものだった。そんな南沢を止める者もいない。行為は拍車をかけていった。
 それと、セックスだけの関係だからこそ話して貰える相手の赤裸々な話を聞くのも気に入っていた。




「南沢さんは、お金が必要なんですか?」
 南沢の望み通り、男からはまた連絡がきた。前は、ベッドだけがやたら高級なラブホテルに入ったのだが、今日は男の意見で男自身の家に行く事になった。
 身形のよい、品の有る男だったので、ある程度の地位にいるとは思っていたが、こんな広い高層マンションの一室で一人暮しをしていたのには驚いた。
「そんなに急いでる訳じゃないけど、高校に入る頃には一人暮しを考えてるから必要かな。っていうか、何でさん付け? 敬語も要らないし」
 南沢と男はふかふかとしたソファーに肩を並べて座っていた。目の前には、高そうなローテーブルの上に、やはり高そうなティーカップが置かれており、その中に香りの良い、そして高そうな茶葉で淹れた紅茶が飴色に輝いていた。
「はは、なんでだろ。俺も普段は敬語じゃないんだけど、何となくそうしたいんです」
 男は軽く笑う。中性的な顔立ちなのに決して腑抜けていないところがまた南沢の好感を誘った。
「拓人さんこそ、俺なんかに構ってて良いのか? もっと、将来性のあるイイ女、すぐに見付かるだろうに」
「よく言われる。でも、恋愛とか、どうも苦手で」
「恋愛結婚したいんだ」
「一応、ね」
「好きな人、いんの」
「さて、どうでしょう」
 そう言って男、拓人は南沢の服に手をかけ始めた。南沢は少し、シャワーを浴びていない事を気にかけたが、拓人がそうしたいのならそれも良いだろうと思い、そのまま拓人の顔を引き寄せると唇を寄せた。
 二人はソファーに雪崩れこむようにして身体を繋げた。南沢は、正直集中出来なかった。こんな質のよいソファーに染みを浸けてしまったらどうしようと思った。けれど、そのような思考も途中までで、あとはされるがままに行為を楽しんでいた。


「はい、今回の分」
 朝になり、南沢は身支度をしている途中に封筒を渡された。軽い気持ちで受け取ったときに、南沢は異常に気付いた。厚い。二、三万の厚みではない。
 本人の前で札数を調べるのは不躾かなと思いつつも中身を覗けばそこには常識はずれの金が有った。
「拓人さん」
「あれ、足りませんか?」
「逆、多すぎ。前は単に羽振りが良いなと思ったけど拓人さんは相場が全然分かってない」
 拓人は困ったように言った。
「でも、南沢さんみたいな綺麗な子と、そういう事をしたら、それくらいは当然かなって、多いのかな……」
 この人は、根から金銭感覚がずれている。中学生との援交に、一般市民の一ヶ月分の給料に価する代金を渡すのは行き過ぎている。南沢は呆れた。
「返す」
「えっ」
「前貰ったので今回の分も含めるから」
「……それなら、南沢さん。このお金を受け取る代わりに、俺以外と性行為をしないっていうのはどうですか?」
「は?」
 余りにも脈絡のない提案に南沢は面食らった。たったの二回しか会った事の無い相手に何を言い出すのだろう。
「南沢さん、今、中三でしたよね。進学したら一人暮しをすると言っていましたし、何なら俺が家賃から、食費まで、全部面倒を見ます。その代わり、好きなときに抱かせて貰う、どうですか?」
「どうですかって」
 おかしい。この男は本当におかしい。南沢は動揺を隠せなかった。
「変だ、いくら金が有るからってそこまで、」
 けれど、南沢は同時に気持ちが昂るのを感じていた。自分は、そこまで金をかけてまで、抱きたい人間なのか。拓人の言葉によって自分自身に段々と付加価値が増えて行くのがとてつもなく気持ちいい。
「昨日、南沢さんは俺に好きな人はいるのかと聞きましたね」
 両肩を掌で捕まれ、固定され、南沢は上を、拓人の顔を見上げた。そして、拓人の無表情を見て動けなくなってしまった。
「あなたですよ、南沢さん」
 息が詰まりそうだ。
「でも、拓人さんと会ったのは、つい最近で」
「南沢さんにとってはそうかもしれませんね。でも、俺は違う。南沢さん、あなた、小学生のとき、電車で痴漢をされていましたね」
「!? なんで……っ」
「見てたんです。俺、電車って使わないんですけど、その日は友人の付き添いで歌手のコンサートに行く途中だったんです。はっきり言って、興味が無かったから、ぼうっとしていたら男の子が痴漢されている。あんなに変な動きをして、何で周りは気付かないのか、俺が止めなきゃ、そう思ってあなたの顔を見たとき、あまりにもいやらしくて、綺麗だから、目が離せなくなってしまったんです。それから、南沢さんを捜して、捜して、捜して、援助交際をしている事が分かって、ああ、こんなにもダメな子に育ってしまったんだなあと思うと同時に、愛しくて愛しくて、堪らなくなってしまったんです」
「…………」
 絶句した。
 というより、拓人の告白に、すっかり気分が萎えた南沢は引いていた。
「あ」
 ぱっと手が離された。拓人は時計を確認する。
「八時、過ぎてしまいましたね。学校まで車で送ります、先に下で待ってますから。準備が出来たら降りてきて下さいね」
 鍵はオートロックなので、と言い残して拓人は慌ただしく部屋を出ていってしまった。
 妙な事になったなあと思いつつも、南沢はいそいそと制服に腕を通したのだった。





2011/12/06



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