・内申書が喋る



前編


 シャンデリアの下で内申書と踊っていた。
 俺は内申書の白い身体を両手で持ち上げ、くるくると回りながら心地の良い穏やかさに浸っていた。
 内申書は嘘を吐くのがとても下手くそで、思った事はなんでも見た目に出てしまう正直なやつだった。
 恥じらうように身体を折り曲げて中身を隠す姿は生娘のようであったし、その白い肌に刻まれた黒いタトゥーを大胆に曝す姿は大胆不敵な真夏の海の妖精に見えた。
 俺が尽くした分だけ、内申書は態度で気持ちを返してくれた。俺が微笑めば内申書も微笑む。そんな幸せな日々だった。
 そう、いつだって俺達は広いダンスホールを貸し切りにして愛し合っていたのだ。
 それなのに……!!!!
「篤志、アナタともお別れだわ」
「どうして、急に」
「急じゃないの。聡いアナタなら気付いていたハズよ」
 見てちょうだい、と言って内申書は薄くて抱き締めたら折れてしまいそうな身体を俺にずいと近付けた。
「もう、空欄が埋まっちゃったの」
 内申書の身体には太い黒枠と細い罫線がいくつか引かれ、色々な幅の四角が混在していた。そして、その枠の中には小さく細かい、俺の担任にあたる人間が書いた字がぎっしりと詰まっていた。
 内申書の言葉通り、どこにも空欄は残っていなかった。
 前回逢ったときから、結構なペースで文字が増えているとは思ったが、こんなにも早く、この時が訪れるとは思っていなかった。
「これからアタシはアナタの志望する高等学校へと向かう事になるわ。そうしてたくさんの人間にこの身体を晒して、品定めされて、最後にはごみ箱に棄てられるの」
「ごみ箱……」
「そうよ、勢いよくダッシュートよ。酷ければシュレッダーね」
 頭の中で内申書の綺麗な身体がところてんのように麺状に砕けていく姿が丁寧に描かれていく。
「じゃあね、幸せだったわ」
 そうして、俺と内申書の関係は終止符を打たれたのだった。
 

後編


「篤志、また会ったわね」
 数ヵ月後、真新しい制服に身を包む俺の前に、一段と艶が有り、色の白くなった彼女が現れた。
「内申書、ダッシュートされたんじゃあ、なかったのか」
「一時はもう駄目かと思ったけれど、大丈夫だったみたい」
「お前は、本当に、あの、内申書なのか」
「ふふ、旧内申書も有るには有るわよ。でも、脱け殻みたいなものね。アナタと愛し合った内申書という存在はアタシで間違いないわ。上手く言えないけれど、そうね。アタシは進化したの。内申書、THE高校バージョンよ」
「内申書っ」
 俺は思わず内申書を引き寄せた。
「やだわっ、高校生になるっていうのに!」
 内申書は言葉だけで俺を窘めたが、そこには拒否も、怒りもない。
「アタシ、しつこいわよ。もしかしたら、一生、篤志に付き纏うかもしれない」
「それでも良い。俺が、お前の身体を、ずっと素晴らしい経歴や、事象で埋め尽くすだけの話だろ」
「篤志……ッ!!」
 俺と内申書は熱い抱擁を交わした。
 シワになっちゃう……という内申書の恥じらうような甘い声で俺は体勢を整え、今度は優しく、内申書を抱き込んだ。


〜Happy end〜


2012/12/28
副題「内申書は優秀な恋人だった」



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