実は……と、非常に平凡な切り出し方をしたTはそのまま話を続けた。
「俺、人生が思い通りに進んでしまうんです! それはもう、面白いくらいに、悲しいほどに!!
 ……少し、感情的になりすぎてしまいましたね。でも、本当のことなんです。もう、これだけで話をやめてしまっても良いくらいなんです。
 でも、それだけではあまりにも味気がないですから! 少しだけ俺の生い立ちでも話しますね。聞き流して頂いても構いませんよ。
 ええと、まず、俺が沖縄出身という事実は、皆さん知ってますよね。
 ……はい、そうです。その通りです。
 俺は、そこで、とある事故に遭いそうになりました。ここが人生の転機、始まりと言っても過言ではないかもしれません。
 そんなに重要なことかって?
 当たり前ですよ。この事象が起こらなければこの物語は始まる前に終わっていたんですから。
 とにかく、俺は、仔犬を助けようとして、大きな木材の下敷きになりかけたんです。木材が太陽を遮るようにゆっくりと、影を広げて近付いてくる光景を、そして、その木材を、熱く、燃えるようなサッカーボールが粉々にした瞬間を、昨日のことのように思い出せます。
 え、サッカーボールが木材を粉砕出来るわけがないって?
 いやいや、案外なんとかなるもんなんですよ。だってこの世界は……あ、話が少し逸れてしまいましたね。
 それで、当然そのサッカーボールの出所が気になってくるところですよね。俺もです。とっても気になっていました。だから、幼少の頃から、サッカーボールに描かれた稲妻を頼りにして、その人物を追い続けたんです。
 そうして、段々とこの稲妻がサッカーの名門である雷門と関係あるんじゃないかって事が分かってきたんです。
 でも、雷門って東京に有るんですよね。俺の家、沖縄ですよ。普通に無理じゃないですか。けれど、上手いこと行くもんですよね。親戚に、東京でアパートの管理人をしている方がいらっしゃったんですよ。
 これ、後から分かった話なんですけど、その管理人、あの伝説のイナズマジャパンの元マネージャーだったそうです。
 なんだか話のも疲れてきましたし、そろそろ先も読めたでしょうから纏めますね。
 俺は見事雷門への入学を果たし、憧れのサッカー部に入部して、そこで色々ごたごたが有ったけれど面白いくらいのタイミングであの円堂監督が現れたり、鬼道コーチが来たりでなんとかなって、実はあのサッカーボールの人が黒幕だったあ! と思いきやそうでもなく、でも正体はかの豪炎寺さんで……そうです。日本代表のあの人です。
 ……まあ、そうなんです! 色々出来すぎていたんです!!
 結局、俺が望んだ方向に総てが運ばれてしまうんですよね」
 Tはもう話をする事がどうでもよくなったようで、どこかソワソワとしながら゛私達゛を見渡した。
 もう、終わりにしても良いですか? と言わずとも、Tが目で訴えているのがはっきりと分かった。
 隣に座っていた男が挙手をすると、「申し訳有りませんが、質問をしても宜しいですか」と無機質な声で尋ねた。
 どうぞ、とTが言えば、男はテープレコーダーを片手に立ち上がった。
「失礼ですが、そのお話のどこが、証明になると言うのでしょうか」
 男のあまりにも不躾な問に、一瞬、会場の空気が固まったような気がした。
 Tは困ったように眉を下げたが、決して動揺している訳ではなさそうだった。
 そうして、Tは質問に答える。
「それを説明する術を、俺は持っていません」
 男が勝ち誇ったような笑みを浮かべるが、Tは男など意に介さず、正面のカメラを見据えて言った。
「でも、俺が主人公だってことは、皆さんの方が、よく分かっているはずなんです」
 そうして、記者会見は締め括られた。




2012/10/25



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