「神童!」
 霧野が右手をビッと前に突き出す。
「愛好!!」
 茜がその手の甲に自らの右手を重ねる。
「倶楽部!!!」
 天馬が最後に、違わず右手を載せると、気合いを入れるように下へ向かって圧力をかける。そして、キリの良い場所で三つの掌はふわりと引かれていった。
 霧野がこほん、と咳払いをすると、天馬と茜は一心にそちらを見た。
「それでは、本日の議題は、なぜ神童はあんなにも美しいのか、です」
 霧野の発表に、二人はおおおーっと歓声を上げながら拍手をする。
 三人は丸いテーブルを囲みながら、なんとなあく神童っぽいという理由でプリンスオブウェールズを飲んでいた。中央には、茜が着々と枚数を増やしていく神童を捉えた写真の一部が置かれていた。
「キャプテンって、俳優みたいだなって思うんです! ドラゴンリンクとの戦いで、キャプテンが現れたとき……スポットライトが見えたんです」
「それ、後光が差したんじゃないか」
「うふふ、オリンポスハーモニーを使っているときのシンさまって、女神さまみたいだものね」
「女神、女神かあ」
 天馬がそう呟き、紅茶を啜ると、霧野がハッとした様子で立ち上がった。
「神童は……、神だったんだ……っ」
 そうして片手で頭を押さえ、苦しそうに下を向く。
「当たり前の事だったんだ。むしろ、何故今まで気が付かなかったのか……美しいのも、当然の事なんだ、何故ならば、神様だから……!!」
「そういえば、神様って、シンさまって読めませんか!?」
 吊られて天馬も立ち上がる。
 茜が驚きを隠すように口元を押さえながら言う。
「じゃあ、私がシンさまって呼んでいたのは……神の、神様の思し召し……っ」
 ついに、茜まで立ち上がった。
 異様な空気の室内を、プリンスオブウェールズの香りが満たしていく。
「今回の会議はとても、有意義なものになりそうだ。神童が現人神だという事に気付けたんだからな」
「あら、ひと、がみ?」
 天馬が訪ねれば茜が答えをくれた。
「人の姿をして現れた神様のコトだよ」
「それは、キャプテンにぴったりの言葉ですね!!」
 うわあ、何だか熱くなってきた! と天馬が盛り上がり、二人も触発されるかのように、身体の内側から気持ちが昂るのを感じた。
 その瞬間、オーロラのように、柔らかく、妖しく、美しい夕日が硝子窓を突き抜けてきた。三人は目を奪われ、光に釘付けになる。なんだか、光の粒子と共に、世界に溶けてしまえそうな気がした。
 まさに、マジックアワーであった。
 三人は、自然と手を胸の前で組み、神童への祈りを捧げた。
 そして……
 ガラリ、とつまらない音を立てて背後の扉が開く。
「もう、駄目よ、アナタ達。勝手に空き教室を私物化しちゃいけません!!」
 女教師だった。
 三人は白けた目で彼女を見つめる。
「空気読めよ……」
 霧野がぼそりとボヤき、すっかり興醒めした様子でティーカップなどを重ね始めた。それに続いて茜も写真を束ね、天馬はテーブルを畳んでから持ち上げた。
「ほら、解散解散」
 女教師はやかましく、手を叩いて、片付けをする三人を急かした。




2012/04/01
 



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