科学の発展とは、実に素晴らしい。
 「疑心」が生まれてしまう原因として、相手の中身が覗けないと言う処が大きいのでは無いだろうか。
 もしも、直接相手の思考を読み取る手段が存在するのならば、「疑心」というものは生まれる前に消えてゆくだろう。
 もう一度繰り返そう。科学の発展とは、実に素晴らしい。
 なんてったって、ソレが可能となった現在、「疑心」は過去の産物になったのだから。


 感情の抽出は、濾過に似ている。
 水溶液が身体、個体粒子が気持ち。機械でもって気持ちを濾過し、画面に結果を表示するのだ。
 例えば、これはとある少女の「フランスパンに抱く感情」の結果。
【おいしい……75%、すばらしい……10%、かわいい……10%、かたい……5%】
 あくまでも一例に過ぎないのだが、機械はこんな感じで詳細を明確にしてくれる。
 料金も400円とプリクラ並みに手軽(実際、プリクラのようにプリントアウトする事もサービスの一環に含まれている)なので愛用者も多いそうだ。
 南沢は、興味本意で兵頭の気持ちを抽出してみようと考えた。
 兵頭を近場の病院まで連れ出した。
「本日は抽出希望とのことですが、何を抽出いたしましょう」
 医者が馴れた台詞を読み上げるようにそう言ったので、南沢はこう返した。
「この隣にいる男の【南沢篤志への想い】を抽出してください」
「なっ、聞いておらぬぞ!!」
「良いじゃないか。お遊び程度に考えとけよ。俺はどんな結果でも気にしないし……お前が見られて困るって言うなら、」
「疚しい事など有りはせぬ、承知した!」
 兵頭は大きく身構え、医者にいつでもやってくれ! という意思表示をした。
 奥の方から看護婦がやってきて、道具を整えていく。
「さあ、こちらへどうぞ」
 兵頭は台の上に寝かされ、レーダーで中身を読み取られていく。この作業は誤差が生じないよう、丁寧にするため、5分はかかるだろうと見積もれる。
 横たわる兵頭を見ながら、南沢は思った。
 恐らく、容姿に関する事しか出てこないだろう。顔だとか身体。興味本意とは言ったものの、少しは気になっていた。兵頭は自分のどこを好き、何を見て告白にまで至ったのか。
 もしかすると、もう、付き合ってから大分経つので、負の感情も含まれているかもしれない。
 それでも良かった。相手へ何の不満も抱かない方が難しいのだし、もし嫌な面が有るのであれば、改善をしてやっても良い。自分を変えるという発想が起きるくらいには、兵頭の事を気に入っている。
「終わりましたよ。どうぞ楽にして下さい」
 看護婦が抽出終了の合図をした。
「こちらが結果の方になります」
 言いながら、看護婦はモニターをこちらに見えるようにした。
 モニターを見た南沢は目を見開いた。
「……兵頭、お前、馬鹿だろ」
 そこには、南沢に対する愛が、存分に詰まっていた。
 勿論、南沢の予想通り、容姿に対する感想も有ったのだが、それはほんの一部にしか過ぎず、大半は中身に関するものだった。
 中でも一つ、目立つものがある。
「日本じゃ、結婚なんて、できるわけないだろ……」
 兵頭が恥ずかしそうに目を逸らす。
 南沢は、視界が水の膜で歪むのを感じ、慌てて下を向いた。
 兵頭の愛に見合うだけの愛を返してやる自信など、どこにも無かったのだ。




2012/03/13




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