「俺の事が好きなら、スカイフィッシュ捕まえてきて」
 その一言から、倉間は高性能なビデオカメラと虫取り網を抱えて、あらゆる場所を探索する事になった。
 山に行き、崖に行き、棒に透明な尾びれがぐにぐにと付着したスカイフィッシュを捕まえようと必死になった。
 知らない方に補足しておくと、スカイフィッシュとは、未確認生物の一種である。一説では、古代に棲息していたアノマロカリスの進化系だとも言われている。
 倉間が海に出たところで、携帯が音楽を奏でた。
「もしもし」
「もしもーし? やっほー倉間! 今日さ、速水と釣り堀に行くんだけど倉間も来る?」
「あー……、俺、今スカイフィッシュ探してるから」
「え、スカイフィッシュ? 笑えるんだけど、ちゅーかさあ、スカイフィッシュって」
 そこからの浜野の解説により、倉間は衝撃の真実を知る。



「モーションブラー現象って言って、とにかくスカイフィッシュはカメラの中だけの存在なんですよ」
「で、なにその蝿」
「いや、ですから、蝿が超高速で飛ぶと、残像が出来て、それがスカイフィッシュになるんですってば。だから、実質、これがスカイフィッシュです」
 倉間は虫籠に入った蝿を差し出した。
「いい加減付き合ってくれませんか? 告白する度に条件付けても俺、諦めませんよ」
「それならゴディバのチョコ買って来いよ、一年分な」
 南沢は蝿入りの虫籠を倉間に突き返した。



「倉間、チョコは好きか?」
 神童にそう訊ねられたので、どうかしたのかと聞いてみる。
「実は、クロスワードの懸賞でゴディバのチョコ一年分が当選したんだ。霧野は要らないみたいだから、良かったら浜野達と分けて食べてくれないか」
「えっ、全部貰って良いのかよ!?」
「倉間にはこの前、柿の種を貰ったからな。ほんのお礼だよ」
 ところで、あの柿の種、いくら水をやっても育たないのだけれど、という神童の発言には無視をして、倉間は見事、ゴディバのチョコ一年分を手に入れた。



 段ボール一杯にたっぷりと詰まったチョコを見て、南沢は明らかに不快そうな顔を見せた。
 それを確認した倉間は得意気に言う。
「約束通り、ゴディバのチョコ一年分ですよ」
「……神童だろう」
「ぐっ」
「お前、柿の種は埋めても育たないって教えてやれよ。アレはただのお菓子なんだから」
「聞いてたんですか」
「神童がお前から貰った柿の種を育ててるって、俺に言ってきたの、チョコの話もその時聞いた」
 あのさ、と区切ってから南沢は話を続けた。
「俺が魅力的で他に目が行かないんだろうけど、お前にはちゃんと女の子と恋愛して欲しいんだよ」
 倉間は机を掌で叩き付けた。
 振動で段ボールに高く積まれたチョコが床へと墜ちていく。
「なんで、なんで、今更、そんな事を言うんだよ……俺が南沢さんしか見れないって事分かってるくせに!」
 南沢は無表情を崩さずに倉間を見据えた。
「お前はバイでもゲイでも無い。俺と付き合ったら、絶対にお前は後悔するし、人生の汚点だったって思うようになる日が来る」
「それは南沢さんが勝手にそう思ってるだけだろ!? 俺はアンタとそういう関係になっても、絶対に後悔なんかしない」
 倉間は南沢の顔を強引に引き寄せて、その唇を奪おうとしたが、南沢が倉間の頬を叩いた事により、それは叶わなかった。
 倉間が茫然としたような風でいるので、南沢は叩くのはやり過ぎだったかと思ったが、次に、倉間はこう言った。
「……俺は、南沢さんになら、叩かれたって良いんです」



 一週間が経ち、倉間と南沢は何事も無かったかのように日々を過ごしていた。
 不意に、南沢は倉間に訊ねてみた。
「倉間、まだ俺の事が好きなわけ?」
「当たり前っすよ」
「なら、付き合おうか」
 倉間が南沢を見上げると、震えた声で聞き返した。
「……あの、もう一度、」
「だから、付き合おうかって」
 喜んでっ!!!! と満面の笑みで倉間が返事をしようとした所で、白いリムジンがそれを遮り、勢いよく中から人が飛び出した。
 人の正体は、神童だった。
 神童が、興奮しきった様子で、早くこれを誰かに伝えたいとばかりにそわそわしている。
 そして、倉間の前に立つと言った。
「倉間、柿の種が芽を出したぞ!」
「良かったじゃねえかよ……えっ?」




2012/03/08



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