帰路で、地面に突き刺さっている標識を見るなり、拓人はこう言った。
「霧野って、標識みたいだ」
「標識? ちっともだ」
 霧野が否定をすると拓人が説明を始める。
「例えだけれど」
 何も無いまっさらな空間に俺が立っているとして、霧野は必ず進むべき道を教えてくれるんだ。
 それも、あらゆる種類の標識を掲げて示してくれる。止まれ、だとか、進め、だとか、ここは慎重にだとか、色々。
 それに従うと、俺は非常に安全な道を悠々と歩いて行けるんだ。
 だから、知らない場所で迷ってしまったとしても、必ず目の前には霧野がいて、俺がすべき事を提示してくれる。
 ――――大体、拓人はこの様な事を長々と話し、霧野へ深い感謝を述べた。
「それで標識になるのか、成程、合わなくは無いかもしれないな」
「だろう?」
 拓人が得意気に笑うと、二人の前を、一台の車が猛烈な速度で駆け抜けて行った。
 ぶわあっと、強い風を被せられて、二人の髪の毛は少しばかり乱れた。
「……凄かったな」
 霧野が拓人の方を向くと、拓人は不快感を隠そうとはしていなかった。
「一体何キロ出しているんだ。ここは、40キロが基本なのに……」
「標識なんて、そんなモノだろう。今のは過剰だったけどさ、ほら、走っている車を見てみろよ。40キロなんて、優に越えてる」
「信号とかもそうだけれど、安全の為に設置されている物をどうして守れないんだろうな」
 拓人があまりにも深刻そうにそう言うので、霧野はなんだか可笑しくなってしまった。
 それでも、霧野は宥めるように拓人の肩を叩いてやった。

「神童だって、守ってくれないくせに」





2012/02/28






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