最近、倉間と南沢は以下のような話をした。
 もし、お互いが殺されたらどうするか、というものである。
 殺される理由は抜きにして、とにかく相手が殺されてしまったら自分はどうするか、自分が殺されてしまった場合には、相手にどうして欲しいか、と言う事だった。
「サスペンスドラマなら、復讐をするべきですよねえ」
「それでもって、刑事ドラマなら、そんな事をしても、死んだ○○さんは喜ばないわっ! って、叫ぶべきなんだろうな」
「あはは、定番定番……でも」
「でも?」
 倉間が急に真面目な顔付きになったので南沢も話を聞く姿勢を整えた。
「確かに、俺が誰かに殺されたとして、南沢さんには復讐なんてして欲しくないですね」
「また、どうして」
「だって、南沢さんの手を汚させたくないし、俺を殺した奴を殺したが為に刑務所行きだなんて嫌ですもん」
「嫌なのか?」
「嫌ですよ! 俺は、悲しんで貰えれば、それで満足っす」
 へえ、倉間って、とっても優しい。
 南沢は、感涙してやっても良いくらいだった。
 それ程に、倉間の回答は、常識的で南沢への気遣いに満ち溢れていた。
 こんなにも思い遣りの心を持った相手が恋人で嬉しいとも感じた。
 しかしながら、どうだろう。
 ドラマなどで主演女優が声高々に「そんな事をしても、天国の○○さんは喜ばないわ!!」と叫ぶとき、南沢はそうとは限らないと思った。


 これは、単なる想像に過ぎないのだけれど。
 死んだらどうなるかという疑問はこの際、割愛するとしよう。天国の有無についても同様である。
 それでも、南沢が殺されてしまったとして、死後、世界が見渡せるとして、倉間を見付けるとしよう。
 まず、倉間は犯人を炙り出す事から始める。そうして、犯人が確定した所で包丁だとか、カッターだとかを用意するのだ。
 怒りに身を任せ、未来を失う事も厭わずに、南沢を殺した事への復讐という目的だけを掲げて相手を葬るのだ。
 人殺しをやってのけてしまうくらいに、自分に入れ込んでいる人間が存在するだなんて、それだけで嬉しくなる事だ。
 更にそれを、自分の愛する人が行うとしたら、考えるだけで堪らないだろう。
「死んだ南沢さんは、貴方がこんな事をしても、喜ばないわ!!!!」
 南沢の中で、熟年の女が熱弁する。
 崖には、倉間が立っていた。倉間は男の首元に包丁を当てて、羽交い締めにしている。そんな倉間を追い詰めるように、それでいて刺激しないように、女と、数名の刑事が近付いていく。
「喜ばない、かな」
「そうよ、絶対に喜ばないわ! これ以上罪を重ねては駄目! ……倉間さん、自首、しましょう」
 倉間は表情を緩め、そうかもしれないと呟く。女達はその一言にほっとし、更に言葉を続けた。
「そう、そうに決まっているわ。だから、男を離し、」
「でも」
 倉間は鋭く研がれた包丁で、男の喉を突き破る。すぐに男の切り口から、大量の血が噴き出した。
「喜ぶとか喜ばないとか、どうでも良い。南沢さんを殺した人間なんて死んで然るべきだ」
 倉間は死体へと変貌を遂げた男の身体を地面に投げ棄てると背中を踏み付ける。笑いながら、何度も、何度も。
 慌てて刑事達が倉間へと駆けて行った。
 ……想像しただけで、ゾクゾクする。
 自分が殺されたら、是非、倉間にはそうして欲しい。倉間が自分の為に道徳を捻り潰すなんて、最高ではないか。
 そんな風に空想に浸っていると、現実の倉間が訊ねてきた。
「ねえ、南沢さんは殺されたら、俺にどうして欲しいですか? 俺が復讐とかを考えたら、嬉しい、とか、思います?」
 それは勿論、喜ぶよ、絶対に、な。
 なあんて事は言わず、南沢は無難に、こう答えた。
「その時にならないと分からないだろうな」
 曖昧な答えに、倉間は拍子抜けしたみたいだ。
「何それ、殺されてからじゃあ、遅いんですからね」
 だって俺、南沢さんが殺されたら……なんて言葉を倉間は呑み込んだ。
 詰まる所、二人はお似合い、という訳。





2012/02/25



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