・寄生虫が苦手な方はお控え下さい。
・誰が攻で誰が受とかあまりない。







「神童、知っているか? マンボウって奴の中身は殆どが寄生虫に支配されていて、自分の意思では生きていないそうだ」
 拓人は間抜けな顔をした平たい生物を思い浮かべた。拓人も、マンボウについてはいくらか聞いた事がある。
 マンボウは、水中から飛び上がり、空を舞うと、重力に従って水面に叩き付けられる。マンボウは皮膚がとても弱いので、その衝撃で死んでしまうらしい。
 成る程、確かにアレは、正気の沙汰ではない。
 霧野は携帯をいくらか操作すると、拓人にとある画像を見せ付けた。
「これは、ラーメンという食べ物か? 生肉の上に麺を乗せるだなんて随分と野性的な食べ物なんだな」
「ばか、流れ的にマンボウの腹ン中をかっ捌いたものに決まってるだろ。このぎっしりと詰まった黄色くて細長いのは、ぜぇんぶ、寄生虫だよ」
「うっ」
 拓人は口元を両手で抑えた。喉の奥から酸味を帯びたものが競り上がって来たが、なんとかそれを胃に戻していく。もう、二度とラーメンが食べられなくなりそうだった。
「これだけ寄生虫に身体を蝕まれたら、気が触れちゃうよなあ。それとも、寄生虫が脳味噌みたいなもので、こいつは何も考えれずに生きてるのかなあ」
「マンボウは水中から飛び上がって海面に身体を打ち付けて死んじゃうそうですよ、何でか知ってます?」
「狩屋!? いつの間に」
「先輩達が面白そうな話をしていたのでつい。で、知ってます?」
 狩屋は拓人と霧野の間に遠慮無く割り込んできた。
「マンボウが自滅してしまうのは知っているけれど理由までは……」
 拓人がそう答えると、狩屋はきたっ! とばかり、得意気に話し始めた。
「マンボウって、約40種類もの寄生虫が棲み着いているんですよ。もう寄生虫のアパートみたいなモンですよね。考えてみて下さいよ。もしも、自分の体内で蟻が動き回っていたら、物凄く気持ちが悪くないですか? 脳味噌に、蛆が詰まっていたら、泣きたくなりませんか? 皮膚に、蚊がまとわり付いていたら、敵いませんよね? そういう事ですよ。マンボウは、寄生虫を振り払う為に、もがいて、飛び上がって、死んじゃうんですよ」
 なんて不憫な。
 拓人はマンボウを憐れに思った。つまり、霧野の最初に言った説明には語弊が有り、マンボウには自分の意思が有りながら、寄生虫のせいで、自分の意思では生きられないと言う事になる。
 それならば、マンボウは何故生まれてしまうのか。マンボウだって寄生虫の被り物になる為に生まれた訳では無いだろうに、いつの間にやら寄生虫の棲み家にされ、身体の隅々までしゃぶり尽くされてしまう。なんて可哀想なのだろう。
「寄生虫さえ居なければ、マンボウはこんな目に遭わないのにね」
 狩屋は拓人の方を見て笑った。
 拓人もそうだなと狩屋に返事をする。
「マンボウにも、自由な人生を歩ませてやるべきだろうな」
 拓人は自分の発言に改めて納得し、寄生など良くない事だと思った。





「霧野先輩をくださいよ」
「ください?」
「そう、俺に、ください」
 狩屋にそう言われて、拓人は首を傾げた。
「霧野は物じゃあないんだから。あげたりする物じゃないし、俺に決定権は無いよ」
「はあ? 決定権はキャプテンに有るに決まってるでしょ。キャプテンが離れてくれれば、それで終わりなんですから」
「よく分からないが……狩屋は霧野が好きで、近くに俺がいると邪魔になるって事か?」
「そうです。分かってるじゃあないですか」
 狩屋は肯定をした。
 拓人は狩屋が霧野の事をそのように思っているだなんて知らなかった。拓人は同性愛に対して偏見などは抱いていなかったので、ああ、そうなのか、程度の感想しか抱かなかった。
 霧野がどうかはさておき、ここは先輩として狩屋を応援しようと思った。
「そういう事なら、暫く俺はお前と霧野が二人きりになるようにするよ」
「えっ、いいの?」
「好きなんだろ、霧野のこと」
「俺、てっきりキャプテンも霧野先輩の事好きなんだと……」
 拓人は少し、驚いた。
 俺が霧野を好き? 確かに好きだけれど、俺の好きはそういうものじゃあなくって。
「俺は友達として霧野が好きだから、狩屋が想像しているのとは違うから安心してくれ」





 霧野がいないと、生きていけない。
 拓人は、心からそう思った。いつも傍に居てくれた霧野と距離を置いた事によって、霧野が如何に偉大か、拓人にとって無くてはならない存在だったかを思い知った。
 自ら援助をしておいて、狩屋と霧野の関係が深まっていくのを見ると心臓を掴まれたみたいに胸が痛んだ。
 一番近くにいた筈の霧野が、急に遠くなってしまったみたいだった。無意識のうちに、霧野は自分以外に靡かないという自信が募っていたのだ。
 けれども、現状、霧野は拓人が居らずとも楽しそうに見えた。
 肩の重荷が取れたかのような。重荷? 俺が? 霧野に限って、そんな事を思う訳がない。駄目だ。霧野がいないと、調子が狂ってしまう。霧野は、俺の隣にいるべきなんだ。霧野を誰かに渡す手伝いをするだなんて、どうかしていた。今すぐ、霧野を取り返さなければならない。
 だから、拓人は、狩屋にこう言った。
「狩屋、頼む、返してくれ」
「……何をですか?」
「分かってるだろ! 霧野だよ、霧野を返してくれ!!」
「先輩は物じゃあ有りません。なので、俺に決定権は無いんですよ」
 狩屋は顔を嗤いで歪ませながらそう言った。
「大体ねえキャプテン。貴方、マンボウに自由な人生を歩ませてやるべきだとか言っていたじゃ有りませんか。自分が先輩の寄生虫だって自覚、あります? ……そうだ、マンボウの摂取する栄養の七割って、寄生虫が搾取しちゃうんだそうですよ。ねえ、キャプテン、人殺しになりたいの? アンタだって、寄生虫のままで終わりたく無いでしょ。ほら、霧野先輩のこと、自由にしてあげましょうよ、ね」




2012/02/19



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