倉間はどういう訳だか、松風天馬と二人きりであった。
 この世界には君と僕しかいないね。いやん、あなたって……キザ。そんなやり取りが許されそうなくらいに、辺りは静まり返っていたし、実際、この世界には二人しかいないのである。
「願い、願いかあ……」
「一つだけ、よく考えて言ってみて下さい」
「金持ちになりたいとか?」
「倉間先輩の望みがそうだって言うのなら、それで結構ですよ」
「……一つ、一つ。願いを無限に叶えられるようにする! とか」
「つまらない人間になりたいのなら、それも良いんじゃあないでしょうか」
「お前、ムカツクわ」
 倉間は丁度、教室の真ん中に当たる席に座っていた。その目の前に、天馬は立っていた。
 実に、このやり取りは何回目だろうかと天馬は考えた。暇潰しに始めた事で有ったが、倉間は毎回異なる結末を用意し、充分に天馬を楽しませてくれた。
 けれど、天馬もそろそろ世界を進めようと思ったのである。よって、倉間で遊ぶのも、これが最後になるのだ。
 なので、天馬はいつもより丁寧に問い掛けをしていた。
「じゃあ、南沢さんと、恋人になりたい」
「そんな事で良いんですか?」
 この人は、本当に南沢先輩が大好きだなあと天馬は思った。
「えっ、マジで叶えてくれんの?」
「勿論です」
 さて、そうと決まれば、始めよう。
 天馬が右手を振り上げ、指を鳴らそうとした所で制止の声がかかった。
「待った!」
 危ない所だった。後数秒遅ければ、天馬は力を使用してしまっていた。
「やっぱり変えます?」
「そうじゃなくて、いい! 魔法だか超能力だか知らないけど……」
「けど?」
「それで南沢さんと付き合えても、嬉しくないなあって、思った」
 天馬は目を見開いた。
 そうして勢い良く座ったままの倉間に顔を近付ける。
「本当に!? 心から! 心からそう思っているんですか!?」
「ちけえ! あんまり寄んなよ!」
「だって……!」
 倉間が超能力を拒否するのは、初めての事で有った。天馬は驚き、自分が興奮している事を自覚し始めた。
 なんておもしろい先輩なんだろう!!
「先輩、成長してるんですね!!」
「は? 何が? お前本当に変な奴だよな」
 若干引き気味の倉間に構わず、天馬は今にも歌い出してしまいそうだった。
「それじゃあ、これでお話はおしまいです。先輩、頑張って下さいね」
 天馬が嫌味の無い笑顔で、ぱんっと両手を叩いた。




 倉間はハッと夢から醒めたようだった。
 実際、倉間の周囲は、様々な生徒が様々な態度で授業を受ける、普段の教室に戻っていたのである。
 天馬の姿は、どこにも無かった。
 夢から醒めたような、ではなく、本当に夢を見ていたのかもしれない。
 倉間はぼんやりと窓を見つめながら思った。
 ……告白、してみようかなあ。
 行動しなければ、きっと何も変わらないのだし、南沢が卒業してしまう前に少し、勇気を振り絞ってみようではないか。



 放課後、倉間はメールで南沢を木陰に呼びつけた。燦々と降り注ぐ陽射しが、葉の間を突き抜けた。
 じわじわと、倉間の体力を奪うように熱は上がっていった。
 南沢がこちらに歩いてくるのに気付いてしまうと、倉間はもう自分の鼓動を制御する事など出来なかった。
 南沢は、ついに倉間の正面へと辿り着く。
 倉間の心拍数は物凄い勢いで増え続けている。
 引き返してはいけない。
 自分の力で、きちんと伝えなければ。
「……好きです、南沢さん!!」
 言ってしまった。散々考えた、格好の良い台詞は全く役に立たなかったが、とにかく言い切ってしまった。
 倉間は緊張で下を向いたまま、前を見る事が出来なかった。
 返事もなく、駄目だったかなと倉間が思い始めた頃だった。
「俺も」
 南沢は、そう言って俯いたままの倉間の顔を両手で上げさせると、触れるだけのキスをした。





2012/02/10



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