東京に行きたいなあ。
 雪村は常々、そう考えていたのである。北海道は、面積に対してなんにも無いのだ。ビルだって中途半端な高さで冴えないし、目立ったテーマパークも無い。欲しい雑誌は必ず二日遅れで入荷されるし、冬は雪しか見処がない。
 東京と北海道では、あまりにも時差があった。要するに、遅れているのだ。何もかもが。
 絶対にこの脚で、サッカーで北海道を脱け出してやるんだ。
 雪村は頑なにそう、決めていた。




「なんだってそう、現状を嫌がるかなあ。君の向上心は素晴らしいものだと思うけどね」
「吹雪先輩は成功した側の人間だからそう言えるんだ」
「ええ、そうかなあ。北海道は楽しいよ。食べ物はおいしいし、何より夏は涼しいし」
「それだけじゃあないですか! 低賃金とか、物価の高さとか、就職率の悪さとか、学力の低さとか、悪い面が多すぎます!」
「雪村は中学生のくせに厳しいね。もっと気楽に生きなよ」
「子供扱いしないで下さい!!」
 吹雪にしては雪村の話をよく聞いた方だった。僕なんか、宇宙人が現れなかったらずっと北海道にいたのにと考えていた。そう言うものだろう。親が欲しい人に限って親がいなく、親が邪魔な人に限って親がいる。人生は望んだように上手く調節出来ないのだ。
「俺は、アンタと対等になりたいのに……」
「僕は、君を対等に扱っているつもりなんだけどな」
「それは、分かります。でも、そうじゃなくて、人間として、先輩と対等になりたいんだ」
 東京に行けば、人間としての価値が変わる訳では無いのに、東京という場所が必ずしも問題の解決をする訳では無いのに、雪村にとって東京とはどのように映っているのだろう。
 吹雪はふと、雪村のその目で世界を覗いてみたくなった。
 雪村にとって東京が僕と雪村を対等にするものだと言うのなら、雪村から見た僕は、東京にいるのだろうか。僕は北海道にいるというのに、不思議なものだ。
 正直、吹雪には分からない感覚だった。吹雪は憧れというものを知らないので、まるで雪村の焦りを汲んでやる事が出来なかったのだ。
 それでも、吹雪はこう言ってあげた。
「雪村、安心しなよ。状況は望む望まざるに関係無く、君の身の丈に合わせて変わってくるさ」
「それは、運命って事ですか?」
「どっちかって言うと妥協じゃないかなあ。生きるって事自体、妥協みたいなものだし。でもね、雪村、流されるままに風になるのは、とっても楽しいよ」
 雪村には、吹雪の言っている事がよく分からなかった。北海道で終わる人間に、雪村はなりたくないのである。
 先輩のように、世界へと羽ばたきたい。その為にはまず東京に行かなければならないのに、どうして分かって貰えないのだろう。
 雪村の不満は募るばかりであった。










2012/02/03



 



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