若干ゲームのネタバレ












 天馬がこう言った。
「剣城のお兄さん、脚が動かないんですよ。剣城、手術代が必要なんです。だからフィフスセクターに従っているみたいなんです」
 変わらない無表情で天馬は俺を見ている。
「そうか、それは大変だな。それで、それを俺に言ってどうして欲しいんだ?」
 俺も努めて冷静にそう返した。
 天馬は未だに視線を逸らさず俺を見る。数秒経って、天馬は口を開いた。
「分かってるくせに」





「キャプテンは、立派なお家に住んでいますね」
「言っておくけれど、神童家の財産はあくまで父さんの物だからな」
「まあ、そうなりますよね」
「分かっているなら、もうやめてくれないか?」
 それからの天馬は、まるで俺を責めるみたいにして毎日ついてきた。天馬は一々、庭の車や建物自体をよく褒めてくれた。けれども、その言葉の裏には、すごくお金がかかっていますね、と言う嫌味が混ぜられている事がありありと伝わってくるのだ。
「やめるって、何をですか?」
「だから、遠回しにお金を求める事だ。剣城が苦労をしている事はよく分かったよ。でも、俺が肩代わりをしてやる事は出来ないんだ」
「そうですよね」
「手術代がいくらかは知らないが、貸す事も出来ないんだ。勘弁してくれないか」
「当たり前ですよね」
 天馬の態度に俺は段々と苛立ちが募りはじめている事を否めなかった。俺にお金を動かす権限が無いと理解していながら、どうして俺に付き纏うのか。
「キャプテン、世の中って、」
「……帰ってくれないか」
「そうですね、帰ります。さようならキャプテン、また明日!」
 俺は天馬の言葉を遮った。天馬はそれに対して怒る素振りも見せずに帰って言った。





 あれからと言うもの、天馬が俺に何かを催促する事は無くなった。そうして俺が剣城の兄を思い出す事も無かった。
 それなのに、今この瞬間、どうしてその事を思い浮かべているのかと言えば、先程、剣城の兄を見掛けたからだ。
 狭い狭い個室に、車椅子ごと押し込められた剣城の兄。彼は平然としてその個室に佇んでいた。俺は、よくもあんな狭い部屋にじっといられるものだと感心したのだ。
 そして、俺はその上の階で院内一、広い個室をとっていた。試合で足を痛めてしまい、入院する事になったのだ。俺は今いる部屋を見て、これで一番広いだなんて、病室とはなんと狭苦しい所なのだろうと思った。
 けれど、廊下から聞こえてきた会話で、ここは特等席だと初めて自覚出来たのだ。
「神童家のお坊ちゃんは、違うわね。あの程度の怪我で、あんな広い個室を……」
「聞こえるわよ、でも、一日いくらかかるのかしらね。もう、感覚が違うのよ。あそこの家は」
 そうか、この部屋は、良い部屋なのか。
 この程度で、周りは贅沢をしていると感じるのか。確かに、俺は、庶民とはまるで感覚が違ってしまっているようだ。
 もう一つ、剣城の兄を思い出したのには理由が有った。
 あのとき遮ってしまった、天馬の言葉の続きを聞きたくなったのだ。





 天馬がお見舞いに来てくれた。
 天馬は部屋を見回すと、俺に向き直った。
「調子はどうですか」
「それより、お前が一時期、俺に付いてきていた理由を聞かせてくれないか」
 そう言うと、天馬は少しばかり驚いた顔をした。
「今更ですか?」
「今更、だよ。お金を求めていた訳じゃあないんだろう? お前は、何を確かめていたんだ」
「同じ中学生なのに、剣城とキャプテンではどうしてこうも変わってしまうんだろうって考えたときに……子供って、産まれた家、親次第だなって思ったんです。もっと言えば、お金次第。俺は、お金を持つ事によって、どれだけ生活水準や価値観が変わるのかを知りたかっただけです」
「……そうか、じゃあ、あのときの続きを教えてくれよ」
「世の中って」
「ああ」
「やっぱり、不平等、ですね」
「うん、それが聞きたかった」









2012/02/01




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