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▼ 魅惑の大晦日/三日月宗近

*名前変換無し。
*審神者愛され要素があるため、閲覧注意。


静かな自室の中、ぐう、と腹が鳴る。

それは聞かなかった事にして。
何をするでもなく、ただ横になったままぼんやり天井を仰ぎ見ると、毎年大晦日に開いている宴会がまだ続いているらしく、遠くでまだ誰かが騒いでいるような音がしていた。


壁に掛けた時計を見やって溜息を一つ。
宴会開始の宣言だけをしてすぐ自室に籠城してから、ゆうに三時間は経っていた。


通年の流れで行けば、今頃は楽しい酒の席に同席して。
甘めのスマートドリンクを片手に肴を摘まんだりしつつ、男士達の馬鹿騒ぎに混ざって年越しのカウントダウンを行っていたはずだったのだけど。

それが出来るのは、自分の仕事が終わっている場合に限られる。


…ちょっと弁解させて貰うと、別に十二月の業務をサボっていただとか、提出書類を忘れていただとか。
自分のうっかりミスが積み重なり、首を締める要因になったわけではない。

むしろ、大晦日くらい羽目を外したいと、今月はいつも以上に張り切って業務をこなしてきたというのに。


「(まさか急に『他本丸の審神者様の連帯戦での戦いぶりを見てアドバイスをお願いいたします、』なんてお願いされるとは……。)」


こればっかりはしかたないけど、大晦日まで仕事なんてついてないなぁ。

モニターに映し出された他本丸の男士達の戦いぶりは、可も無く不可も無く。
指摘できる点と言えば、夜戦なのに大太刀を出陣させている事くらい。


職務怠慢、と言われてしまえば返す言葉も無いが、先程からひたすら眠くなるような映像が続き、いい加減眠気覚ましにガムでも噛もうかと思い始めた頃。

不意に時計を仰ぎ見ると、まだてっきり猪の刻だとばかり思っていたのが、いつの間にやら時計の針は進みに進んで、今まさに子の刻へ差し掛からんとしている真っ最中だったので、面食らってしまう。


「うそ、もうこんな時間…。」


そんな言葉が口をついて出たのに次いで、この分だと今年はこのまま一人で年越しだなぁ…と諦めモード全開で欠伸を噛み殺したところで、襖越しに声をかけられた。


「おーい、あるじ……もしかして、まだ仕事か?」


気配など全く感じさせず。
あたかも最初からそこに居たかの如く。
襖越しに寄越された声はとても優しく、穏やかで。

その声音に誘われるようについ襖の方へ足を向ける。


「(この声、三日月だよね。)」


流れるように襖を開ければ、廊下の冷気が流れ込んできて僅かに体が震えた。

しかし、審神者部屋から漏れ出る細い光に照らし出された黒髪と落ち着いた笑みを目にした時、何だか妙に安心してしまって。


「ご、ごめんごめん……今日、夜警か何かだっけ?どしたの、何かあった?」


気が緩んだためか、大分ちぐはぐな言葉を投げてしまったものの、彼は緩く首を振り…後ろから土鍋が乗ったお盆を取り出して見せた。


「飯がまだだったろう?余り物の部類だが、何も無いよりはましかと思ってな…とりあえず、持ってきてみたというわけだ。温かいうちに食べてくれ、」


今夜も冷える…とにかく、体を冷やさぬようにな。

お盆をこちらへ確かに渡すと、彼は踵を返し…何とも淡泊に去って行こうとする。
いつもなら、ありがとうとお礼を言ってその後ろ姿を見送るはずだが。


「…あの、三日月。」


思わず、呼び止めた。
…否、ほぼ強制的に引き留めてしまった。


「あっ…えっとぉ……ええと、ね…。その…これ、主命とかじゃなくて、私の個人的なお願いだから。嫌だったら、全然断ってくれて良いんだけど……もうちょっと…ううん、五分くらいでいいから。少しだけ、私と一緒に居てくれない?」


わざわざ待たせているんだから何か言わなくちゃと思い、とりあえず話してはみたものの───結局、甘えが口をついて出た途端、急に正気に戻ってしまうのは何でなんだろう。


考えてみりゃ、私ももういい歳だし。
三十路近くの女から『一緒に居て』なんて追い縋られて…流石に呆れられちゃったかな。

や、今のは誰に言っても引かれちゃうかも。


「な、なぁ〜んて……。」


あはは………、

苦し紛れに笑いながら恐々彼の方を眺めやるが、その顔には侮蔑や面倒臭そうな感じは微塵もない。

かと思えば、また元のように戻ってきて…こちらと目線を合わせるようにやや屈んで。


「ほう…五分か。何ともいじらしいな、」

「それ、どういう……。」


気まずさと恥ずかしさに苛まれ、若干もじもじしながら問うも、優しげな微笑が消える事は無い。


「そうさな。では、これは俺個人としてだが…五分よりか、もっと多く。俺と長く一緒に居たい、とは思わないか?」

「そりゃあ、ね…出来ることならそうしたいよー…?でも仕事が、」

「……うん、違いない。生真面目で勤勉なのは主の好いところだ。」


瞳の中に浮かんだ三日月が僅かに揺れ、あんまりにも綺麗なそれは、確かに自分に向けられている。


「だが…主はいつも頑張っているだろう。年の瀬くらいはもっと我が儘を言ったって誰も文句は言うまいよ。まあ、最終的にどうするか決めるのは主なんだが、」


どうだ…俺と一緒に抜けるか?

甘やかに耳打ちされ…抗えず頷けば、三日月がくすりと笑ったのが分かった。


「よしよし…素直なのも佳いことだ。では、今年最後の主の我が儘を叶えるとするか。」


直後。
彼の背後から、なんとも悪い笑みを浮かべた管狐が滑り込んできて。


「……あぁあ〜!私としたことが、仕事のし過ぎて無性にブレイクダンスを踊りたい気分にー!」


お許し下さい主様ー!
お詫びに、今年一年密かに練習してきたキレッキレのダンスをご披露いたしますよー!

わざとらしい大声を上げてモニターに突進し、こんのすけはやや強引に回線を切断する。


後にも先にも、こんなに驚いたのは初めて…。

そんな事を思っていると『では行くか、』と呑気な声が振ってきたのと同時にぐいと手を引かれ、なし崩しで廊下を歩き出す。


「あーっと…もしかしなくても、油揚げで釣った感じ?」

「いいや。何もやるとは言っていないが…まあ、あやつはあやつなりに主思いという事なんだろう。」

「うーん…管狐の忠義とか、後が怖いかも……。」

「それはそれとして。抜けたは良いが、のーぷらん?だな、」

「げ、ついに横文字なんか覚えたの?使い方もなんとなく合ってて怖いし…。」

「怖いとは心外だな…変わるのは悪い事ではなかろうよ。俺も主に合わせて…あっぷでぇと、という奴さ。」

「…はいはい、調子良いんだから。」


end.

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