▼ 絶対両思いだと思ってた/ジェイド・リーチ(twst)
*申し訳程度のジェイ監(男装女主)要素あり。
*夢小説味の強い表現過多、キャラ崩壊多々、残念設定ありにつき、閲覧注意。
*名前変換を使用しない場合、監督生の名前は全て『ユウ』で統一されます。
一日のうち、何度も目が合って、その度にやや気恥ずかしそうに微笑まれ、ごくごく控え目に…けれど、確かにこちらへ向かって手を振られる。
偶々ならまだしも、毎日毎日そんな事をされたら、最初はその気がなくとも後々好きになってしまうに決まっている───。
今日も監督生からのいじらしい好意の表出を華麗に受け止めるが早いか、ジェイドは口元に浮かべた笑みをさらに深くし、そのまま自分も微かに手を振り返して紳士的な対応を返す。
たかが数ヶ月前に知り合った陸の人間…それも『異世界から来た、』という嘘なのか本当なのか分からない謎設定を引っ提げ、学園内の面倒事を常に押しつけられてばかりいる彼。
否…彼女のお人好しっぷりは最早同情する域であるが、見ている分には非常に面白く、飽きが来ない。
こうして、積もり積もった彼女に対するただの興味が純粋な好意にすり替わったのは、つい最近の事のような気もするし、ひょっとするともっと前だったような気もする。
尚、この好意が彼女への恋心である事を自覚した時は、あまりの衝撃に耐えきれず、モストロ・ラウンジに保管されている高級カトラリーセットからフォークとナイフを拝借し、それを持ったままバックヤードの水槽に飛び込んで激しく水飛沫を上げながら泳ぎ回るという奇行に及んでしまったくらいである。
その時水槽から見たアズールとフロイドの顔は傑作で、マジカメに投稿すれば亜音速でイイねの乱打が来るであろう代物であったが、生憎と。
その時の彼の両手にはしっかりとフォークとナイフが握りしめられたままで、当然そこにスマホが入り込む隙間なぞなかったため、残念ながら写真は残っていない。
ちなみに、その時に撮られた自分の写真は、方々へ物理的な圧力を掛け、結果的にはスマホごと粉砕して回ったために、外部へ出回る事はなかった。
まあ、何はともあれ、単刀直入に言うと。
ジェイドは、設定だけはてんこ盛りなただの人間こと、監督生を好きになっていた───最近はどちらかというと、既に諸々の段階をすっ飛ばし、愛してすらいた。
それでいて『彼女の方から自分へ好意を示すような行動をし始めたのだから…、』と。
言い換えれば、彼女と自分は絶対両思いで相思相愛の状態なのだと信じて疑わなかった。
…というか『恋は盲目』とはよく言ったもので、事実、ジェイドは監督生に直接自分の思いを伝えたわけでもなければ、彼女との間にナニがあったわけでもない。
誤解を招かないように言っておくが、二人はまだ本当に健全な関係である。
しかしながら、当のジェイドの脳内では、監督生はもう完全に自分の彼女と化しており。
めでたく学生結婚をして、お互いの同意の元、恥じらいながら肌を重ね…嬉し涙を流しながら第一子を腕に抱く所までを一連の流れとして何度もなぞりながら、いつでも彼女に手を振り返していたのであった。
今まで『陸に憧れる人魚の気が知れない、』だの『種族の違う人間に恋をするなぞ理解しがたい。』だの。
何やかやと、異種族間での恋愛に否定的な意見を述べていたのは確かに自分であったのに、今ではそんな事はつゆ程も思っていない。
兄弟の言葉を借りながらあえて言い表すと『その頃の自分を力一杯絞めてやりたい衝動に駆られる、』というやつである。
種族が違うから何だ、寿命が違うから何だ。
───愛があれば、結果的にどうとでもなる。
最期に勝つのは愛なのだ。
…とまあ、ここまで監督生を自分の番としてロックオンしてしまった詳しい経緯を語ってきたわけだが、本番はここからである。
それというのも、監督生に手を振られ、喜々として手を振り返す…までは良かったのだが。
彼女のいじらしく可愛らしい様に我慢が効かなくなり、気が付くと、最寄りの空き教室に彼女を連れ込んでしまっていたのだ。
その事実に気付くや否や、この上なく愉快な心地に陥ったのであるが、どうにかいつものような含み笑いで留めて。
ジェイドは監督生を近場の机に縫い付けるが早いか、その花のような容を上から下までじっくりと見下ろす。
夢の中で幾度も触れた頬。
補整下着を着込み、確りと潰された胸。
清潔感のある甘く仄かな香り。
短く切り揃えられているしなやかな黒髪。
何処を取っても溜息が出るように慎ましやかな容姿にこそ、たまらなくそそられる物があるように感ぜられて、彼はごくりと生唾を飲み込んだ。
「…ユウさん、」
気持ちが昂ぶるあまり、監督生という名称では無く、彼女のファーストネームを口にすれば、目の前の少女の肩が大袈裟な程に揺れた。
「な、何でしょうか…?」
おずおずと返されたのは、やや固い声。
…今自分が緊張しているように、彼女も少し緊張しているのかもしれない。
きっとそうに違いないと思うと、たまらなく愛おしいような感じがして、彼は笑みを深くした。
ならば尚の事、早く伝えなくては。
思いばかりが先へ行こうとするのをどうにか押さえながら、ジェイドは確りと彼女の目を見据え、言葉を発する。
「───結婚しましょう。」
淀みなく、きっぱりとそう言えば、彼女は目を見開き、驚いたような顔をしていた。
…無理もないだろう。
前振りのような物も無ければ、それらしいようか事も言った試しは無かったのだから。
そのうち、彼女は上目にこちらを見て、こんな事を言い出す。
「…あの、ジェイド先輩。質問、良いでしょうか?」
「ええ、何でもどうぞ。」
「あの…さっき『結婚』と聞こえたような気がしたんですが…私の聞き間違えですよね?」
今度は、こちらが目を見開く番だった。
『聞き間違えですよね、』とは…これはまあ、また何ともお茶目な。
大口を開けて笑ってしまいそうになるのをどうにか堪え、彼は緩く首を横に振る。
「いいえ?間違いではありません。僕は確かに『結婚しましょう』と言いました。」
「あっ…ええと、そう…ですか……そう、ですよね?」
「…………。」
きっと、いきなりの事に気が動転しているのだろう。
気恥ずかしそうに目を伏せた彼女の様子をにこにこと見守っていると、彼女は急に顔を上げ、小首を傾げながらこちらを見てくる。
「…もう一つ、質問良いですか?」
「勿論、構いませんよ。」
頷くと、彼女は伏し目がちに言葉を発する。
「…その、非常に言いにくいんですが。私達、特にお付き合いしているわけではなかったと思うんです…それが、どうして急に『結婚』という運びになったんでしょうか?」
「────言われてみれば、確かにそうかもしれませんね…では、結婚を前提にした『お付き合い』から始めましょうか。」
「……………。」
返事はなかったが、沈黙は肯定と取って良いのでは無いだろうか。
そんな事を思っていたら彼女が『ちょっと友達を呼んで良いですか?』なぞと言いだしたので、いつも一緒に居るあの面子を呼び出すのだろうと踏み、また静かに頷く。
すると、彼女が徐にこめかみへ手を当てたのと同時に、入ってくる時に確りと鍵をかけたはずの教室の扉がひとりでに開き。
「───僕を呼んだな?」
そんな事を言いながら、学園内では滅多に出会う事の無い生徒が颯爽と教室へ入ってくるのが見えた。
自身より幾分か高い背に、頭に生えた黒い角…マレウス・ドラコニアだ。
何故このタイミングで彼が、なぞと思っているうち、彼女がそちらへ向かって手を振るのが分かり、ぎょっとする。
まさか…いや、彼女の事だ。
あり得ないとは言い切れないが。
「…ツノ太郎!来てくれたんだ、」
………まさかだった。
というか、いつ知り合いになったのだろう。
これまで、この二人の間に接点らしき物は無かったと思ったが。
呆然とマレウスの方を眺めていると、彼は監督生からの言葉に応えるように軽く手を振り返し。
未だ彼女を机へ縫い付けるような体勢のまま固まっているしかないこちらを見て、思い切り顔を顰める。
そして、ただ一言。
「…お前、僕の妃に何をしている。」
あからさまに怒気を孕んだ口調で放られた言葉を受け止めた途端、ぴし…と。
ほんの一瞬、空気が凍った。
「…は、ちょっと。ツノ太郎、何言って…、」
焦ったように言った彼女を庇うように抱き締め、入り口に立ったままのマレウスを睨むと『離れろ、』と言わんばかりに強く睨み返される。
しかし、こちらとしては先程のおかしな発言を撤回してもらわねば引き下がる事は出来ない。
そんな事を思いながら、ジェイドは毅然とした態度でマレウスに声をかける。
「───どうも。今まで、こうしてお話をする機会が来るとは思っていませんでしたが…ユウさんとはどんな御関係で?」
「関係も何も、先程言った通りだ。」
「…ユウさんの顔色を見る限り、とてもそんなようには見えませんが。」
「それはお前に迫られているからだろう。」
「…お言葉ですが、迫っているわけではありません。彼女は、僕の恋人ですから。恋人同士なら、こんな事をしていても不都合は無いでしょう?」
「…世迷い言を。もう一度言うが、それは僕の妃だ。お前の恋人等では無い。」
こちらが一つ物を言えば、相手は二つで返してくる。
こんな具合に、話は平行線のまま一向に交わる気配も無ければ、お互いに譲歩する気もない。
それに痺れを切らしたのか、監督生が何事か言っているのが聞こえたが、生憎と今そちらへ耳を傾けてやれる程の余裕は無かった。
…この口論に勝たなければ、彼女を取られてしまう。
それだけは確かなので、ジェイドは眼光鋭くマレウスを見据えた。
ひとまず、これに勝てば彼女との蜜月は約束される。
ならば、茨の国の次期国王を敵に回す事になっても、絶対負けるわけにはいかない…!
強い決意を胸に抱き、彼は皮肉混じりの言葉を口にし、絶えず冷笑を浮かべながら、目の前の妖精を相手に盛大な口喧嘩を挑む。
…一気に修羅場と化した空き教室には、互いに負けられない口喧嘩を続ける人魚と妖精の声の他、部屋の隅へ追いやられた古時計以外に音を出す物は何一つとして存在しなかった。
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