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▼ 灯火をつけて/エース・トラッポラ(twst)

*ツイステ処女作。
*エー監(男装女主)。
*夢小説味の強い表現過多につき、閲覧注意。
*名前変換を使用しない場合、監督生の名前は全て『ユウ』で統一されます。


それは、何でも無い日の事。

欠伸を噛み殺しながら授業を受けて、騒ぎながら昼食を取って。
…ありきたりで、いつもと何ら変わり映えのしない放課後。

その時ばかりは珍しく、監督生と二人きりで、これまたいつものような気怠い開放感を享受していた時。


「ねえ、エース。」


名前を呼ばれたので、ふと隣を見ると。

自分と同じように隣で伸びをし、緩く心地の良い放課後の雰囲気を味わっていた監督生が、上目にこちらを見ているのと目が合う。


…何か、世間話でもしてくれるつもりなのだろうか?

もしそうなら、授業以外の話題───そう、例えばマジフトの話なんかが望ましい。
バスケかサッカーの話でも良いが。


彼女の瞳を眺めながら、頭の中でぐるぐる考えていると、監督生は不意にこんな事を言い出す。


「エースはさ、私がいきなり一週間くらい居なくなったら、困ったりする?」


本当に何でもないような調子で、ぽいと放られてきた話題に一瞬戸惑うも『多分深い意味はないよな、』なんて高をくくり。

薄情なようにも見える悪い笑みを浮かべ、言葉を返してやる。


「お前さ、なぁーに言っちゃってるわけ?俺は今まで監督生が近くに居なくったって生きてこられたんだから、たかだか一週間くらい会えないくらいで困ったりしねーって!そもそも俺、割に器用だし、お前と違って魔法だって使えるしさ。」


『大体、そこまで弱っちくねーっての。』

いつもの調子でそう返すと、彼女は一瞬だけ困ったように眉根を寄せ。
そうかと思えば、また元のように締まりのない表情をして。


「───そうだよね。」


えらく間を開けてはいたが、勤めて明るくそう言うが早いか、監督生はいつものように。

けれど、どこか寂しそうに。ともすれば、安心しているような…酷く曖昧な感じを織り交ぜながら、ただただ笑って見せた。


***


件の会話から二日後。
何故か今日は、監督生もグリムも学校に来なかった。

今まで一度もこんな事はなかったので、若干驚きはしたが、恐らくは寝坊か体調不良だろう。


誰しも、学生生活の中で一度はやらかす事くらいあるだろうし、自力でどうしようもないような出来事が突然に起こったりするものだ。

監督生には、それが今日偶然に降りかかってきたのだろう。

勝手にそう思って、ひとまず授業を受け、大食堂で食事をしている最中に『そういえば…、』と彼女達の事に触れると、デュースは驚いたようにこちらを見る。


よくよく気をつけて向かいに座った友人を眺めると、フォークに巻かれていたままだったナポリタンがずり落ち、余白の目立ち始めた皿の上へ盛大に着地する。

そのあまりに不抜けた様に、自分はそれ程変なことを言ったろうかと首を傾げていると、デュースは皿に落ちたナポリタンを認めるや否や、酷く緩慢な動きでそれを巻き取りつつ、伏し目がちに言葉を発する。


「………お前、監督生から聞いてなかったのか?監督生とグリムは今、学園長と一緒にホリデー中だぞ?」


「ホリデー?今更かよ…っていうか、一応あいつもホリデーはあったはずじゃん。それが、何でまた改まって…。」


「───いや、それがだな。監督生とグリムは、この前のホリデーが散々だっただろう?だから、今回は学園長の好意で、学外へ一緒にホリデーに出てるらしい。」


「…………ふぅん。」


それを聞いて、監督生が何故この前『一週間くらい居なくなったら、困ったりする?』なんて聞いてきたのかがようやっと分かる。

…に、してもだ。


「(デュースにはホリデーの事言ってったくせに、俺には何の報告もないとか…いい度胸じゃん。)」


確かに、デュースの言う通り。

監督生とグリムにとっての初めてのホリデーが散々であったのは認めるし、また厄介事に巻き込まれたのも素直に気の毒だなと思う。


だがしかし。
アレはアレ、コレはコレ。

今回の争点は、何故監督生が自分に『学園長とホリデーに言ってくる、』と言わず、黙って旅行く…なんて芸当をしたのかである。


「(もしかして、俺と話しにくい…何て事は絶対ないだろうし、もしかしてアレか?土産の費用を最低限にするため………うん、あり得なくはないな。)」


監督生に対して失礼な事を考えながら、エースは一人口をへの字にし、憤慨する。

あいつもあいつだし、グリムもグリムだ。


もしかすると、俺はあの二人から友達と認識されてないのでは…なんて考え出した所で、エースは唐突に思考を放棄した。


最早、何に憤慨しているのか。
はたまた、何故そこまで意固地にならなくてはいけないのか。

論点が段々ずれていっている感じは否めなかったが、やはり腹立たしい物は腹立たしい。


キッと目元をつり上げ、眉間に皺を寄せて…機嫌が悪いのを隠そうともせず、小さく舌打ちをして時計を見やった。

───昼休みは、まだたっぷりある。


その事実を確認するが早いか、エースは自分の皿に残ったサニーレタスを乱暴にフォークへ刺し、口へ納めて。

噛むのもそこそこに、勢いで飲み込んでしまってから、食後の紅茶を取りに一人席を立つ。


「(決めた………あいつらは俺無しで楽しんでんだから、俺だってあいつら無しで楽しんでやりゃあいい!!)」


監督生とグリムより、もっともっと…あいつらのホリデーより、もっと充実した学園生活送って、帰ってきた時ぜってー『羨ましい!』って言わせてやる!覚えてやがれ…!!!

歯を食いしばり、今ここに居ないオンボロ寮の寮生二人へ高らかに宣戦布告し、エースは今後の予定を決めるべく、スマホを起動してマジカメを漁り始めた。


***


監督生とグリムが、学園長に連れられてホリデーに行ってから、数日が経過し。

その間、マジカメは今まで見る専で通してきたエースは、同寮の先輩…ケイトの協力を得て華麗にマジカメ投稿主デビューを決め、身内や学友からそこそこのイイねをもらいつつ、全力で。

───端から見れば、自棄を起こしているように見える程異様なテンションで学園生活を楽しんでいた。


この前は『何でもない日』のパーティー内で、どさくさに紛れてリドルとツーショットを撮る事に成功するという快挙を成し遂げ。

別日には、購買の駄菓子を全種類一つずつ買って、デュースと駄菓子パーティーをし。

また、ある日はしこたま部活に勤しんだし、次の日には、他の学友と一緒に心ゆくまでマジフトをして楽しみもした。


一昨日は錬金術の授業で、どうにかこうにか爪の先程の大きさの金を作り出す事に成功したし、昨日は午前中の内に課題を片付け、午後からはモストロ・ラウンジに出向き、普段はあまり話さない同級生と意気投合して連絡先を交換した。

今日は今日で、昨日連絡先を交換した同級生と遊び回り………先程、鏡の間からハーツラビュル寮へ帰ってきて、自分とデュースに宛がわれた部屋へ続く階段を登っている訳だが。


「明日…明日は………。」


監督生が自分の近くから居なくなって、今日で丁度七日目。

ついにやる事がなくなり始めたのを感じ、エースは俄に焦っていた。


監督生…ユウが居なくても、こっちはこっちで楽しく過ごしてやる、と本人不在にも関わらず宣言し、宣言に違わずそれらを実行してきたわけだが。

ユウは、普通のホリデーを過ごしているわけではない。
あの学園長と一緒のホリデーを過ごしているのだ。


彼女は別れ際『一週間』と言っていたし、デュースも『一週間くらいで帰ってくるらしいが、』と言っていたので、それくらいがホリデー終了の目安だろうとは思っていたが。

万が一にでも学園長が『もっとゆっくりしていきましょう、学校は逃げやしませんからね。』なぞと言おうものなら、いよいよこちらが危ない。


……というのも、監督生がホリデーに出掛けて五日目辺りから、無意識のうち『なあ、監督生!』なぞと、彼女が隣に居ないにも関わらず、あたかも隣に居るかのように。

いつもの調子で、誰も居ない右側へ話し掛けてしまう事が格段に増え、その度に自分でもハッとしたし、周囲に居る学友やデュースに苦笑された。


加えて『いい加減、監督生が居ないと寂しい。』という気持ちが、拒否も否定もできない程に強く出始めてきていた───正直なところ、今日遊び回っている最中も、何度虚無感を味わったか分からない。

…その癖、変な意地が邪魔をして、彼女にメールの一つも打てずにいる自分がいるのも確かで、エースは伏し目がちにとぼとぼと寮の廊下を歩く。


「……そもそも、俺があいつにメールしないのは、あいつから全っ然メール来ないからだし…って、」


俺、何か独り言増えた?

うっわ〜、超ダサ………。


誰に聞かれるでも無く独りごち、部屋の扉を開けようとノブに触れようとした直後。

バタン!!!と凄い勢いで扉が開き、驚いたのも束の間。
薄暗い部屋の中から、転がるようにして出て来たデュースと、正面衝突してしまう。


「………げぇっ!?!?」
「うわっ………!?!?」


何分急な出来事だったため、受け身も取れず、互いにもつれ合うようにして廊下へ転がり。

各部屋の間へ等間隔で置かれている小さなテーブルにぶつかったかと思えば、それを巻き込むようにして盛大に転がって…彼等は痛む体に鞭打って起き上がり、暗い廊下で向かい合う。


「おいコラ、デュース…!」


あらん限りの怒りを込めて文句を言おうと口を開くと、ぶつかってきた張本人であるデュースは、こちらの二倍程の声…ともすると、ディアソムニア寮のセベクに近しいくらいの声量で、一息に捲したててくる。


「…丁度良かった。エース、監督生が帰ってきたぞ!」


「───は?」


『何でそんな事…、』と口では言いつつも、久しく耳にしていなかった監督生絡みの話題を聞いたせいか、五月蝿いほどに心臓が跳ね出す。


「ちょっと前に、監督生から連絡があったんだ。多分、お前のスマホにも来てると思うぞ…今、荷物を持って、グリムと一緒にオンボロ寮に向かってる最中らしい。」

「…!!」


直後。
まだ何か言っている友人に背を向け、エースは足音を忍ばせる事も無く、物凄い勢いで階段を降りだした。


消灯時間はとうに過ぎ、真夜中といって差し支えのない時間帯に騒ぎを起こせば、寮長に大目玉を食らうのは避けられないが…ここで先の事を気にしすぎるのは、野暮というものだ。


軽快に足音を立てつつ階段を駆け下り、各階の寮生をもれなく起こしながら談話室を横切って。

重たい錠へマジカルペンを当てて、掛けられた鍵を易々と開くが早いか、勢いもそのままに玄関から外へ飛び出す。


何でこんなに衝動的に体を動かせるのか、自分でもちょっと驚いていたが、行く先はもう決まっている。

迷路状に入り組んだ広大な庭を抜け、躊躇する事無く鏡に飛び込み、学内の鏡の間に出て。
そのままの足で、メインストリートへ通じる鏡へ飛び込み、石畳へ足をつける。


「(…監督生に会ったら、まず最初に文句を言って。あとは、俺に断りも無しにホリデーに出てった事についての話と、ホリデー中にメールの一つも寄越さなかった事と………それから、)」


……それから。

それから…何と言えばいいものか。


夜闇の中であっても、そのはっきりとした輪郭と冷たい石の質感を見せるだけのグレートセブンスの像を横目に、オンボロ寮の方へ走ろうとしたが。

どうしたものか、先程あんなに動けたのが嘘のように足が動かなくなり、エースは石畳の真ん中で立ち止まる。


監督生に会いたい気持ちが先走りすぎてここまで来たものの、彼女に会ってどうするか…なんて所までは考えておらず、唐突に気が滅入って、動くに動けなかった。

次いで溜息が出ればもうお終いだ。

この一週間、やや無理をして遊んだのがたたったのか、急激に疲れが襲ってきたような感じがして。
彼はその場にしゃがみ込み、時間差で流れてきた汗を拭いながら少し休憩をする。


足下に手をつくと、石畳のひんやりした感じが伝わってきて、とても気持ちがいい。


「(…なんなら、このまま。)」


『あいつに会えないで朝になったって構わないけど、』

───ひどく投げやりにそう思った瞬間。
背後から、カツカツ…と軽快な靴音が聞こえ、何だと思って振り返ると。


「……あ、」


驚きのあまり、目を見開き、間抜けな声を上げて固まってしまったのは、致し方ない事としてほしい。


目視にして、ざっと五十メートル程先。
学園長の趣味であるのか、古風なデザインの紺色のワンピースに身を包み、鞄を持った少女が驚いたようにこちらを凝視していた。

言わずもがな…足音の主は、正に今ホリデーから帰ってきました、と言わんばかりの格好のままの監督生だったのだ。


「───やっぱり、エースだ!!」


こちらと目が会うやいなや、嬉しそうに表情を緩め。

荷物がぱんぱんに詰められた重そうな旅行鞄を一生懸命に引きずり、こちらへ走って来るものだから、もう逃げようもない。


とりあえず立ち上がり。
駆け寄ってきた彼女とは対照的に酷く曖昧な表情をしながら、エースは一週間ぶりに見た監督生をまじまじと眺め下ろす。


「ただいま、エース!私、このホリデーに色々な所へ連れてってもらってね…、」


「…………。」


「学園長先生、凄かったんだ…あ、グリムも負けず劣らずだったけど……それからね?」


「…………。」


監督生とは、たった一週間会わなかっただけ。
なんなら、この前のホリデーの方が、会えない期間自体は長かったはずなのに。

随分と離れていたような気がするのは、自分の思い違いではないだろう。


───そんな事を考えながら、いつになくぼんやりとした感じで彼女を眺め続けていると、監督生はやや間を置いて。

神妙な顔でこちらを見つめ返していたかと思いきや、いきなり破顔して、鞄の鍵に手をかけ始める。


「皆まで言うな…私にはちゃんと分かるよ?エースが心配してるのは、お土産の事だよね?大丈夫。せっかくだから、珍味…とか、一瞬だけ考えたけど、今回はちゃんとした物買ってきたから、安心し……えっ!?」


監督生が珍妙な声を上げたのを至極近くに聞き、思っていたよりか随分と華奢で柔らかな体の感覚を腕に感じながら、エースは眼下に来た監督生のつむじを眺め下ろす。

彼女は今、自身の腕の中に居た。


何も考えず監督生を抱き寄せてしまった事に自分でも驚きながら、どうした何だと腕の中で騒ぐ彼女を少し強めに抱いてやり、その左肩へわざと自分の顎を据え置いて『しー…、』と囁けば即座に口をつむぐ素直さが気に入らなくて。


「ユウ、お前さ───俺に断りも無しにホリデーに行くなんて、いい度胸してんじゃん?あ〜あ、俺悲しいなぁ…!」


「え、嘘…絶対言ったと思ったんだけどな……。」

「いーや、言ってないね。絶対言ってない、断言する。そもそも俺が聞いてないんだから、お前が言い忘れたに決まってんだろ。いやー、悲しいなぁ、泣いちゃうなぁ…お前と友達、やめちゃおうかなぁ…?」


本心からの言葉ではないというのに、彼女は最期の方の発言を耳にした途端にビクリと体を震わせる。


「そ、そんな…どうしよ、いきなりの『友達やめます』宣言に、私泣きそうなんだけども…!」


「──へぇ?監督生は、やっぱ俺と友達でいたいんだ?」

「もちろん、」


即答に気を良くして『どうしようかなぁ、』『お前がどうしてもーっていうなら、許してくやらなくもないけどな〜…。』等と、焦らす事数分。


「じゃあ、これから一週間。オンボロ寮にエース様の事を招待して夕飯を御馳走してくれるなら、友達のままでいてやろうかなぁ?」


彼女から顔が見えないのを良いことに、自分でも分かるくらい思いっきり悪い顔のままそう言えば、ここで断れば良いものを。

監督生からは『じゃあ、お夕飯作り頑張ります…何か食べたい物ある?』という答えが返ってきたので、溜息が出る。


「(ほんと、こういう所が心配っていうか…。)」


これだから、学園長にもいいように使われているんじゃなかろうかと思うし、個性の殴り合いが普通のナイトレイブンカレッジでは、こんな学生は数年に一人居るか居ないか…という程の希有なタイプの学生であるから、いくら普段は男装をしていると言ったって、悪目立ちするのは避けられない。

だから、ただでさえ色々と可哀想な境遇の彼女が楽しい思いをする時、傍に居るのが自分であれば良いと…そう思ってしまうのは、ただの我が儘なんだろうか?


甘い香りのする彼女の首へ頬を擦り寄せながら、ぬいぐるみへするようにぎゅうぎゅうと腕を彼女の体に絡みつければ、当然『痛いんですが、』と抗議の声が上がる。

しかし『友達なんだから良いだろ、これくらい…普通普通、』なぞと丸め込むと、それもそうかとあっさり流される彼女に、また溜息が出てしまう。


「(本当、こいつ俺の事『友達』としか思ってないんだろうな…。)」


俺はそうじゃないんだけど。

全身がじわじわと熱を持つのを感じながら、やっぱりぎゅうぎゅうと監督生を抱き締め、耳や頬の赤みが自然と引いていくのを待つ。


そんな中。
やっぱり自分は待つのが得意じゃないらしい、等と思いながら、半分夢でも見ているような心地で。

…彼はやっぱり、監督生を離せずにいた。


end.

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