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▼ ∴怖いと思うから怖い/大典太光世

※名前変換なし。
※微ホラー要素ありにつき、閲覧注意。


「あぁ〜!つきぃがー!!でたぁ〜でぇーたぁー!!」


「何故炭坑節を…。」


「───うーん、なんとなく…?っていうかこれ、盆踊り唄じゃないの?炭坑節なの?ねぇ、」


こんな具合に、外灯なんていう気の利いた物が無い夜道を、提灯の明かりのみで照らし出し。

見ての通り馬鹿みたいに騒ぎながら、本丸への道をお供の光世と歩く。


『月が出た出た』…なんて呑気に歌っているものの、生憎今日は月なんて出ていないし、なんなら星だって見えない。

なのに、場違いにこんな歌を歌っている主を見ても、黙って伴を務め続けてくれる彼は、かなりよくできた部類の刀剣男士だと思う。

いつもは絶対にこんな事なぞしないのだが、如何せん飲み会の帰りなもので仕方ない───と。
自分の痴態を正当化しながら、彼女は千鳥足で、上機嫌に歌を歌い続ける。


「つきぃがー!でたぁ〜ぁ、ヨイヨイ!!」


『…あくまでそれを歌うのか、』と言いたげな彼の目線を無視し、彼女は光世の持つ提灯を眺める。

夏らしく、朝顔の模様が書いてある、丸い…一見何の変哲もないような提灯であるが、灯る光は妙に白っぽく、軽く数メートル先まで見える程に明るい。

しばらく考えて。
『ああ、中にLED電球が入っているのか、』と思い至り、やっと納得した。


提灯の中に、わざわざLED電球を入れて使えるように細工するなんて、手間じゃないか。

なら、そのまま懐中電灯を使った方が…なんて言うのは、野暮だろう。


『好きな物を好きな形で使うのが、物を長持ちさせるコツなのだ。』と。
男士の中の誰かが言っていた気がする。

まあ、所詮人間である私は、その域を出ないような考えしか浮かばない訳であるし。
男士は皆神様なんだから、神様の言うことに間違いはないだろう…多分。


酒のせいか、とんでもなく訳の分からない理論を展開した挙げ句、一歩踏み出した所で転びそうになり。

絶妙なタイミングで伸びてきた彼の腕によって、泥だらけになるのはどうにか免れた。


「んっはぁ〜…助かったよぅ、光世ちゃん…。」


ありがとです。

正しいような、正しくないような…何とも微妙な日本語を使いつつ礼を述べると、光世は『気にするな、』とだけ言って。


けれど、彼の左腕がすかさず腰の辺りへ回り。

よろけないよう…という事なのか、さり気なく抱き寄せられ。
上手い具合に光世の左半身前にくっついて一緒に歩くような格好になった。


「んー…?」


いつもは、頼んだって絶対にこんな事してくれないのに。

…というか、手を貸さなきゃまずいと思われるくらいの、余程危なっかしい歩き方をしていたのかな。


そう思いながらも、こちらから特に言及する事も無く。
しばらく彼にくっついて歩く。

誰の目があるわけでもなし。
こういうのも、たまには良いだろう。


ふんふん、と。
相変わらず鼻歌を歌いながら歩いているうち、唐突に思い出した事があり、彼女は隣を歩く光世に話しかける。


「ねえねえ光世ちゃん。光世ちゃんは、お化け…っていうか、そういう『見えちゃいけない』っていう類の物が見えるとか、ないの?」


「────何だ、藪から棒に。」


「だって、気になるんだもん。」


「…知ってどうする。」


「どうもしないよ?ほら、私審神者だけど、霊感皆無な人間ですし?ちょびっとだけ、そういう系の能力に憧れがあると言いますか。」


だから、光世ちゃんはどうなのかなぁ…って。

へへ…と。
笑いながら言うと、彼は何やら渋い顔をしてみせ。

そうかと思えば、たっぷり間を取って話し出した。


「…俺の場合、あえて『見よう』と思えば見えるが、『見たくない』と思えば見ないようには出来る。」


「えっ、そうなの。」


「他の奴等も大抵はこうだと思うが…直接聞いて回った事がないので、よくは分からん。」


割にあっさりそう言い、彼はまた黙る。


「えっ…あの、じゃあさ。光世ちゃんは、そういう類の物、怖いと思ったりしないの?」


「怖い?」


「…あ、思わないんだ。」


自分で聞いといてなんだけど、光世ちゃん神様だもんね…そういうの相手に、一々『怖い』なんて思わないか。

何だか自己完結みたいになってしまったが、恐らく大まかな所はそうと見て差し支えないのだろう。


「…あんたは。」


「はい?」


「あんたは、そういう類の物が『怖い』のか?」


「うん…まあ。どっちかー、と言われたら、そりゃ怖いよ。得体が知れないし、出来れば一生関わらないのが良いに越した事は無いだろうし…っていうか、どの審神者に聞いても『平気』って人の方が少ないんじゃ無い?」


真面目に答えると『そうか、』と返して、彼はちらりと背後を見やる。

赤い瞳があらん限り細められたのが、提灯の明かりの元、はっきりと分かってしまい。
『後ろに何かあるの?』と。

そう問おうとして口を開くと、いつもより低い声で、また光世が話し出す。


「───そういう類の物というのは、見えようが見えまいが、やたらに怖がらないのが良い。特に『怖い』と一度思えば思っただけ、余計恐ろしい物に変貌する事もあるからな。」


「ど、どゆこと……。」


「どうもなにも、そのままの意味だ。それから…ここから先。本丸に着くまでは、絶対に後ろを見るな。」


「え…、それって。」


さぁ…と、血の気が引いた。

再び歩き始めた彼に合わせて足を動かすが、不安な気持ちは、そう簡単に消える物でも無し。


「う、嘘だよね…?もう、光世ちゃんてば、冗談なんか言えるようになっちゃって、」


「冗談だと思うなら、そういう事にしておくのも良い…俺の言う事を信じようが信じまいが、あんたの自由だからな。」


「……………。」


彼の一言を聞き、黙る他なかった。

…というか、自分には真偽の程を確かめる勇気も無かった。


結局、彼女は光世にひっついて、ただひたすら前を向き、特に何事もなく本丸へ辿り着いたが。

───あの夜、彼の見ていた物は。
彼女達の背後へ居たのは、一体何だったのか。


今となっては、分からず終いである。


end

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