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▼ 恩返し/アラジン

・可愛い話にしたかった…。
・夢主様は大体アリババ君と同い年です。
※名前未入力の場合、表記は全て「ルネ」で統一。


〜シンドリア 緑斜搭〜


「(暇だなー…。)」


緑斜搭にある部屋で枕を抱き締めながら思う。

窓の外を窺って見ると、昼間を過ぎたばかりのためにまだ日は高い。


…今寝たりしたら絶対に夜眠れなくなってしまう。
暇を持て余しながら、ルネは大きなベッドの上に寝転がった。


ルネはアラジン達とは、今まで一緒に数々の冒険をしてきた…所謂、けっこうに深い仲なのである。

その中でも、とりわけ彼女と特に繋がりが深いのはアラジンだ。


アラジン曰く、“頑丈な部屋”から出てきて初めて会った人間がルネなのだそうで。
初めて会った日、感激して握手を求めてきた彼の手をそっと握ったのが記憶に新しい。


元々、迷宮攻略や冒険といった類いの物に憧れを抱いていたルネは、アラジンの『一緒に冒険しようよ!!』という途方もない誘いに乗り、ここまで一緒に来た。


一度は皆と離れてしまったが…この広い世界の中で、また再会できるとは奇跡に等しいと思うし、ルフの導きというものには非常に感謝している。


後から聞いてみれば、アラジンはあの伝説の王の選定者『マギ』であり、あんまりよくは分からないが、かなりすごい人物らしい。

特に強くもない自分も彼のマギとしての立場の恩恵を受ける事となり、シンドリアでのルネの扱いは三人と変わらず『国家の客人』のまま(という名の特別待遇)なのだ。


その点から考えてみても、自分はアラジン達のオマケみたいな物なんだなー…、と、少し悲しくなる。

シンドバッドさんにとって自分の存在は穀潰しみたいなものだろうし、何か役にたたなくては、と気持ちばかりが焦って結局何も出来ないでいるのが恥ずかしい。


しかし、何をすれば様々な人に恩を返せるものだろうか?

考えあぐねていると、視界の端に青いものがちらついた。


「?」


そちらの方に視線を向ければ、ベッドの端からアラジンがひょっこりと頭を出して、こっちを見ているのだった。


「アラジン、」


「あ、見つかっちゃった…。」


えへへ、と笑いながらベッドの上によじ登ってくる動作が可愛らしくて、隣に来た彼の頭をついつい撫でてしまう。

気持ち良さそうに目を瞑っている様は、どことなく飼い主に甘える子猫を連想させた。


「修行はもう終わったの?」


「うん。今日はね、ちょっと難しい魔法を習ったんだよ!!」


これがこうでね…。

楽しそうに魔法の事を話してくれる小さなマギに所々相槌をうちながら、ルネは考える。


アラジンには何をしてあげたら恩返しになるのだろうか、と。


「アラジンは、私に何かしてほしい事ある?」


口をついて出た彼女の言葉に少し驚きつつ、いきなりどうしたのかと問うてくるアラジンに、特に深い意味はないと笑ってみせた。


「ただね、私は弱いから。アラジンにも、アリババにも、モルジアナにも助けてもらってばっかりだから、三人に何かお礼がしたいなーって思っただけ。」


いつもありがとね。
小さく礼を述べれば、彼は困ったように眉根を寄せる。


「そんな…僕達は特に何もしていないよ。むしろルネお姉さんに色々なお世話をしてもらって、本当は僕達がお礼を言わなくちゃいけないのに。」


ありがとうって言えなくてごめんよ。
傍にあった毛布を抱き寄せて、アラジンが小さく呟いた。


“ありがとう”と言ったのに、また同じ言葉で返されるのは変な気がしたし、ちょっとだけくすぐったいような心地がする。


「お姉さん、」


「なあに?」


続けるように促せば、曇りのない真っ直ぐな言葉がアラジンの口から紡ぎ出される。


「ええとね…。さっき、お姉さんが僕に聞いた事なんだけど。
僕は、ルネお姉さんに傍にいてほしいって。そう思うよ。」


ああ、そうか。
恩返しというのは、なにもその人の言う事を何でも聞いたり、物をあげる事だけではない。

恩を受けた人に寄り添う事でも、恩返しは十分出来る。


それなら…。


「それなら、私はアラジンと一緒にいるね。」


「本当かい!?」


「うん!」


ずっと一緒、というわけにはいかないけれど…。
私は、君が私を必要としなくなる時まで君と一緒にいよう。


素直に喜んで、花が咲いたような笑顔を浮かべる小さな少年の様子を見ながら、ルネは誰にも分からないようにそう誓った。


end

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