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▼ *ヒメゴト(下)/〃

行灯の明かりが薄らと部屋を照らす中、彼女はか細い喘ぎ声を上げる。

着物と下着は少し前に完全に取り払われ、堀川の眼前には、白く丸みを帯びた女体がさらけ出されていた。


熱く狭い中へ出し入れされる彼の人差し指と中指には、言い逃れが出来ないほど蜜がべっとり絡み付き、早く早く、と行為を急かしているようだった。 

トロトロと物欲しそうに垂れてはシーツを濡らすそれを時折掬い、雛先に塗り付けて苛める親指の動きに身悶えが止まらない。


「ひゃぁ、ぁ…あっ!?」


突き抜けるような快感を貪り、達してはまた戻る。

せわしなく上昇と下降を繰り返しながら、彼女は薄目を開けて堀川の方を盗み見た。


青い瞳は紳士的な色を湛えたまま、穏やかで。
彼女が嫌がるような事や、手荒な事は決してしない。


彼女が達し続けて、生理的な涙をこぼす度、頬や髪を撫でながら『もうちょっとだけ頑張ろうね、』『すぐに終わるからね、』と、声をかけてくれるのは。

こんなにも大切に扱ってくれるのは……もしかして。


淡くみっともない期待が膨らみ出す頃、また絶妙な力加減で雛先を押し潰され、目の前が真っ白になる。

頭が変になりそうなくらい気持ちが良くて、息を呑み込むようにして達すると、内側でゆるゆると動いていた二本の指が、ぐぽ…と粘着質な音を引き連れてそっと引き抜かれた。


このまま意識を手放せるのなら楽なのだが、あいにくそれは許されない。

ここからが霊力補給の本番とも言えるのだから、気をやるわけにはいかないのだ。


肩で息をし、降ってきた口吻を受け取ってすぐ、こちらの様子をうかがう言葉と、髪への愛撫が寄越される。


「顔色、良くないね…ちょっと疲れちゃった?」


気持ち悪くなったり、どこか痛くなったりしてない?
平気?

次々と放られる問いかけに対して僅かに頷くと、不安気に歪められた顔へ微笑が浮かぶ。


「ちょっとだけ、休憩しようか。」


どこまでも優しい声音に、今度こそ泣きそうになった。


本当はもっと雑に扱われても仕方が無いし、そろそろ飽きられても仕方が無い頃だというのに、彼はこんな自分をいつまで経っても丁寧に優しく扱ってくれる。


彼を慕わしく思う気持ちは既に元々の倍以上に膨れあがっていた。

その反面、それらが全て憐れみを込めたリップサービスの類いだったら、と思うと、やはり泣きたくなってしまう。


「堀川…あ、のっ………あの、ね…。」


「なあに?」


同じ調子の声に怯みそうになるが、ここで言っておかなければ、ずっとこのまま行為が続いていってしまう。

…そんな予感が頭を掠めた。


彼女は重い目蓋を上げ、しっかりと堀川を見つめて告げる。


「その………、待ってくれなくても、平気。私は、大丈夫…だから………だから、堀川の…すきな、ように…。」


好きなようにしてくれて構わない。

途切れ途切れではあったが、何とかそのような旨を伝えると、彼は整った顔を僅かに歪める。


「いきなりどうしたの…?そんな事したら、主さんが後から辛くなるよ?」


───もしかして、誰かに何か言われた?

心配そうにしてくれる彼の声音と表情には、嘘偽りが見えない。


様々な表情を見せられる度。
その指や手で、優しく触れられる度、こんなに苦しくなるなんて。

このままずっと、報われない思いを黙って抱えているなんて拷問には、到底耐えられそうもなかった。


…いっその事、空っぽになるまで吐き出してしまおうか。

自棄になりかけている頭では、そんな考えがひたすら巡っていた。


それがどんな結果を招いたとしたって、きっと我慢できる。

堀川とはもうこれっきりになって───霊力補給の相手が変わっても。


ここではっきりさせてしまえば、きっと楽になれるに違いない。

自分本位で幼い思いが先行し、彼女はかさついた唇で再び言葉を紡ぐ。


「私…堀川以外の男の人と、こういうの、した事なくて…だから、その………優しくされると、皆、こうしてくれるのが普通なのかなって、思って……。」


そこまで言った所で初めて、堀川が怪訝な顔をしてこちらを見ているのに気がつき、慌てて弁解する。


「あの…ごめんなさい。変な意味じゃないの…、ただ……私は本当に、男の人と言えば堀川しか知らないし、バカだから…。優しく触られたり、待っててくれたりすると…堀川が、私のこと好いてくれてるのかなって、勘違いしちゃうっていうか……。」


勢いで口を動かしてみたはいいが、内容が纏まらない上に、ここまで来て視界がじわりと滲む。


何を泣いてるんだろう。
一人で勝手に盛り上がって。言いたいことだけ好き放題に言って。

きっと、堀川からしてみればいい迷惑だろうに。


いつの間にか、ぽろぽろと溢れて自然には止まりそうもない涙を拭おうとした手は、透明な雫に触れるより先に、強い力で敷布の上に縫い止められた。

元より二人しか居ない部屋の中、それをやってのけたのは他でもない堀川だ。


急な事に理解が追い付かず、涙でぐしゃぐしゃの顔のままそちらを向くと、今にも泣きそうな彼と目が合う。


「………主さんは、僕のこと…嫌い?それとも、何か嫌な事しちゃった…?」


悲しげに揺れる瞳に答えを促され、傷付け合う前に自分から離れようとする気持が揺らぐ。


「ち、違うの……。嫌いとか、そういうのじゃなくて…。」


堀川から出た嫌いという単語を全力で否定したが、気まずくなって顔ごと視線を逸らせば、すぐさま頬に手が添えられると共に寄越された『ちゃんとこっち見て、』という言葉で、今度こそ動けなくなる。

腫れては滲みを繰り返す視界で青い瞳を見つめ、何か場が上手く収まる言葉がないか探っていく中、彼女はついにとんでもない事を口走ってしまう。


「だから…、その………わたし、堀川の事…すきに、なっちゃいそうで…っ。」


そこまで言ってから、ハッとした。

今、私は自分で何て言った。
『すき』と、そう言わなかったか。


「あぁあぁ、あのっ、その…っ。」


言葉を捻り出そうとすればするほど拗れていくような感じがしたが、そうせずにはいられない。

口は災いの門とはよく言ったものだ。


出した言葉は引っ込められないし、どれだけ悔やんだとしても無かった事になんて出来ないのだから、もう収拾がつかないのは明らかだった。

よもや、自分で自分の首を絞めるような事になるとは…。
ここまで来ると、哀れを通り越していっそ滑稽だろうに。


しかし、穴があったら入りたいようなこの状況下でも、思い人は彼女を見捨てはしなかった。



彼女が自身の下でひどく取り乱す様を眺めていた堀川は、一瞬表情を引き締め。

彼女の体に覆い被さって、布団の上に乗ったままの華奢で白い肩を抱き寄せ、混乱の根源を掻き消すように耳元で低く告げる。


「…いいよ。」


「………っ!?!?」


一体何事か。

思いもよらないような言葉に、頭が真っ白になった。


何だか落ち着かなくて、暖かい腕の中で身動ぎすると、逃がすまいとするように、更に抱き締める力が強くなった。


「この際だから言っちゃうけど、僕は…ずっと前から、主さんの事好きだったよ。もちろん、今の自分の持ち主だからってだけじゃなくて、ちゃんと一人の女性として。」


だから。


「僕の事、嫌いじゃないなら…もっと好きになってよ。」


先程と同じような事を何の躊躇いもなく囁きかけながら、痛いくらいに抱きしめられ。

今しがた寄越された言葉の意味を理解した時、彼女は今までに無い気持の高ぶりを感じながらその身を一気に紅潮させた。


二十と数年生きてきて一度だって貰った事のない言葉には、明らかに疑う余地は無い。


それなら、今まで自分が両手から溢れるほど受け取ってきた優しい言葉達は、全て堀川からこちらへ宛てられた素直な気持ちで。

そうであればと期待しながら、口にすることを拒んできた淡い思いは無駄ではなかった、という事になるが。

───ならば。


「もしかして…私が堀川に『霊力補給の相手をしてほしい』って、お願いした時に断らなかったのって………。」


「………僕が、主さんを好きだったから。」


そもそも、嫌いなら頼まれた時に断ってるよ…?

綺麗な青が少々恨めしそうにこちらを眺めたかと思えば、撫でろとでも言うかのように頬を擦り寄せられる。


「正直、主さんが霊力補給の相手としてでも僕を選んでくれたのは嬉しかったし、何をするかも知ってたから、出来るだけ主さんの負担を減らして、優しく大切に抱こうって決めてたんだけど……!」


苦しげに告げた後、堀川はそれまできつく抱き締めていた白い体を解放して不意に起き上がった。

唐突な肌寒さに、剥き出しの体のそこかしこが粟立つ気配を感じながら、離れてしまった堀川を眺めていると、頬へ口付けられる。


しっとりと湿った柔らかい唇の感触が皮膚に纏わり付き、それに当てられるようにして体に熱が戻っていく。

続いて、額、鼻先、唇…という具合に触れるだけの接吻を施しながら、彼の指は彼女の秘所をそっと撫でて。

…冷えてはいるが、そこが未だ蜜を湛えたまま濡れそぼっているのを確かめるが早いか、彼女の柔らかな腹部と布団の間に手を入れ、状況にまるで付いてこられていないその体をころんとひっくり返した。


「あっ…ぇ……?」


いきなり視界が反転した事に驚き、自らの唇からは間抜けな声が転がり出る。

そうして、普段見慣れた天井ではなく床の間の方を眺めながら、自分がうつぶせの状態にされたのだと分かる。



堀川はどうしてこんな事をしたんだろう。

純粋にそんな事を思いながら元の体勢に戻ろうと中途半端に起き上がってすぐ、先程まで腰の下に敷かれていた枕がすかず横から差し出された。


「これ。ちょっと抱いててね、」


「…うん?」


何ら疑うことなくそれを受け取って、柔いそれに顎や顔を埋め、落ち着く場所を探り当ててから、ようやく自分がとんでもない格好をさせられている事に気が付く。


彼女は、頭を低くして枕を抱き、腰を高く上げた状態で、蜜に濡れた秘所を堀川の方に晒すような格好をしていたのだ。


まるで、交尾をする時の獣のような…。

妙な考えが頭を掠めた所でやっぱり元の体勢に戻ろうとすると、それを阻止するように堀川の手が内股をするりと撫で、ぬかるんだ秘所に指を入れてぐるりと掻き回す。


「……っく、ひ…あぁんっ!?」


「もう…何で、こんなに可愛いかな。」


僅かな呟きの後、今度は何の予告もなしにもっと深くへ指を沈められ、湿った空気の中にぐちゃぐちゃという淫猥な音と、甘えるような喘ぎ声が混じる。


「あぅっ、あ、ぁあぁあっ……ほり、かわ…、あっ…く…ぅ……。」


「……どうしたの?」


「こ、れ…っ、あぅっ…ン…ぅ、はずかし…っ、からっ…やらぁ……。」


何とか抗議するが、堀川の手は止まらない。

それどころか、最奥から溢れてきた熱い蜜を狭い秘所全体に馴染ませるかのように塗り広げ、大丈夫だよ、怖くないよ、と繰り返すばかりだ。


気が触れてしまう程の気持ち良さに絶えず晒されながらも、必死で枕にしがみつき、涙を堪えて喘ぎ続ける様は健気で可愛らしく見えた。


…しかし、こうも健気な所を見せ付けられると、どうにも加虐心が煽られるので、堀川はこっそり溜息をついて指を秘所から引き抜く。

引っこ抜かれた拍子に、彼女の小さな口から色気のある声が漏れ出し、怠くなり始めた体に鞭打って緩く首を捻ると、後ろの堀川と目が合った。


視線がかち合った途端、嬉しそうに微笑んで頭を撫でてくれる彼につられて自身も口角を上げる。

…その行動が駄目押しとなったようだった。


笑みを向けてすぐ、白いままだった堀川の顔に僅かな赤みが差したが、それはたちまち真剣な顔の下へと潜り込んで見えなくなってしまう。


「………主さん。」


「ん……?」


「僕、さっきは『主さんの事、優しく大事に抱きたい。』って言ったよね?」


───それ、ちょっとだけ破ってもいいかな?


情事の時特有の気怠さを感じる中で不意に放られた問いかけに即答するのは難しかったが、彼の言った事を自分の中で何度か繰り返してみると、快楽に漬けられっぱなしだった思考が薄らと覚醒し始めた。

それとほぼ同時に、一抹の不安が頭を過ぎる。


「………それって。痛くするって、こと?」


堀川が酷い事をするはずが無い、とは頭で理解していても、口に出して聞かずにはいられない。


余程不安そうな顔をしてしまったのか、それまで彼女の顔を眺めていた堀川は慌てて笑みを作り、枕に沈んだ頭をくしゃりと撫でた。


「大丈夫、痛くはしないよ?ただ…その……主さんがあんまり可愛いから、ちょっとだけ意地悪してみたいっていうか…。」


言い淀むうち、彼の指は物欲しそうにひくつく秘裂をゆっくりとなぞり、優しく弄くる。

じきにそこが甘えて吸い付くような動きをし出したのを見逃さず、彼は自らの魔羅を押し当てて器用に先の方だけを咥えさせた。


「ひっ………!?」


痛みは無い。
しかし、確かに在る圧迫感に息を飲み、枕に顔を埋めて奥歯を噛み締めてみても異物感は増すばかりだ。

出来ればいつものように優しく励ましてもらいたいところだが、体勢が体勢なだけに、彼の顔を伺うのは容易でない。


それどころか、力が抜けているのを良いことに、ぐいぐいと押し付けられ、時間をかけてしっかり解された自らの胎内は、やや強引な入り方をしてきた魔羅を歓迎するように飲み込み、蜜を絡みつけてきつく抱き締めた。

自身の思いや考えとは全く逆の事をして媚びてみせる体が恨めしいが、ここまで来ればもうなるようにしかならないだろう。


諦めて枕を抱き直し、ぐす…と鼻を鳴らしたところで、急に堀川が動いた。

浅く。
探るようにごく軽く突かれただけでも、彼女の体は崩れ落ちそうになる。


「っ…ぐ……!!」


苦しげな声が漏れ、零れた涙が枕に落ちて小さな染みを作った。


そんな中『主さん、』と不意に放られた声に返事をする事も出来ず、ただびくりと体を震わせると、堀川は今度こそ崩れ落ちんとする彼女の腰を静かに支え、話し掛ける。


「ごめんね、主さん…。この体勢は初めてだから、怖いよね?」


「………。」


「でも、ちょっとだけ…ううん。今日だけでいいから、このまま抱かせて?」


縋るような言葉をかけられてすぐ、彼女の耳には、ぬかるんだ泥を踏みつけた時のような音と、自身の甲高い嬌声が届いた。


腹の内にあった物がゆるりと動くだけで体が震えるのに、それで奥の方をコツコツと突かれると、もう駄目で。

感じていた異物感はすぐさま強い快感へと塗り替えられていく。


「あぁあンっ、あっぁ…やっ…ん、ぐっ…ひぎっ………ンっ!?」


おかしくなるくらいの気持ち良さをどうにか逃がそうとして必死に枕を抱き、声を上げるも、一向に楽にはなれない。

後ろから強く突かれる度に視界が白み、新しい涙が零れて、だらしなく開いた口からは涎が垂れた。


体勢からして直接的に顔は見られなくとも、そうなっているのが分かるのか、彼は嬉しそうに囁きかける。


「はあっ……いい子、だねっ…、可愛い…大好き、だよ…。」


何気ない言葉であったかもしれないが、それを耳にした途端に、自身の胎内が、ぎゅう…と彼の魔羅を締め上げたのが分かった。


「……あぅ、っふ…。」


「今、締まったよね?」


ほんと…可愛いんだから。

呟かれた言葉を拾い、自分の痴態を恥ずかしいと感じながらも、彼女は頭の片隅で今までに無い満たされた気分でいる事に気が付く。


───彼もそうであってくれればいいが。

しかし、一際良い所をぐしゅりと刺激されると同時に、その考えは霧散する。


「……ひぐっ、あ、ぁあぁ…っ!?」


「主さんは、ここ好きだもんね。」


腰を使ってねっとりとそこだけを責め立てる彼の表情は分からないが、何とはなしに笑っているのだろうなという気配を背中で感じる。

そのうち、彼女の胎内が魔羅の動きに呼応するように波立ち始めたのを感じ取ったのか、彼は腰の動きを早めた。


「あぁあぁあ……っ!?なんっ、で…っ、やら、やっ…ぁ、イっちゃ…ぅ、からぁっ……。」


「だめだよ…?ほら、我慢しなくて良いから、このままっ、気持ちよくなって…!」


「ひっ、う…あっ……やだやだやだっ…、あぁっ、く…きちゃう…っ!?」


逃げようとしても押さえつけられるようにして体を揺さぶられ、彼女は息を飲むようにして絶頂を迎える。

少し遅れて堀川が腹の奥に吐精したと同時に、彼の神気が体中に満たされ、勢い良く巡っていくのを感じながらへたり込んだ。


***


「ごめん、ちょっとだけ起こすね…ああ、そうそう。」


体の方は平気?どこも痛くない?

体中を拭き清められ、新しい寝間着を着せられ…という具合に甲斐甲斐しく世話をされながら投げかけられた言葉に弱々しく頷けば、堀川は幾らか表情を和らげた。


そうして、空いたままの彼女の脇へと体を横たえ、顔を覗き込む。


「神気は…ちゃんと渡ったみたいだね、良かった。」


「うん…何だか、とっても調子が良くなったみたい。」


ありがとう、と礼を述べると、彼は微笑を浮かべ、投げ出された手をそっと握ってくれた。

僅かに触れた場所から伝わる温もりが心地よくてついつい欠伸をしてしまうと、堀川は青い瞳で優しくこちらを見つめ、何気なく問いかける。


「主さん…もしかして、眠くなっちゃった?」


「う、ううん。平気…。」


咄嗟に否定し、頭を振って何とか眠気を振り払おうとするも、一度眠いと自覚するともう駄目なようだった。

いつもより近くにいる堀川としっかり視線を合わせたいはずなのに、目蓋がだんだん重くなるのを感じる。


うつらうつらしながらも懸命に起きていようとする様に苦笑し、彼は、横に退けられたままだった掛け布団を引っ張ってくる。


「…何を、」


ばさりとかけられた布団の重みを感じながら、その行動に対して質問しようとすると、皆まで言う前に堀川に抱き寄せられた。


「そういえば。今まで、霊力補給が終わってから主さんと一緒にいたことって一度も無かったよね?」


「確かに、そうだけど…。」


「…だから、今夜はずっと傍に居させて。」


無垢な提案に思わず頷いてしまうが、内心手放しでは喜べない自分がいる。

これまで霊力補給の後、すぐに堀川と別れるようにしていたのは、誰かに見られぬように、という配慮に基づいた判断である。


勘の良い者は既に気が付いているかもしれないし、もういっその事オープンにしてしまっても差し支えない頃合かもしれないが、正直、誰かに生の現場を見られでもしたら…と思うと、気が気でない。

そんな胸中を察してか、彼は悪戯っぽく笑って抱き締める力を強めた。


「ねえ、主さん。もう誰に見られたって大丈夫でしょう?───僕達は、お互いに好き合ってこうしてるんだから。」


「………うん。そうだったね。」


言われてみれば、確かにその通りだ。

霊力補給行為の最中のやり取りからしてみれば、大部遠回りな方法で互いの気持ちを知ったこととなるのだから『好き合ってこうしている』という表現はなかなかに的を得ていた。


…そこまで考えて、彼女の頭は限界を迎える。

完全に目蓋を閉じ、寝入ってしまった彼女を眺めながら、堀川は小さく呟き、額に口付ける。


「…おやすみ、主さん。」


「ん………。」


口付けをもらってすぐ、彼女は隣の優しい温もりに身を預け、夢と現を彷徨い出す。

彼女は今、誰よりも幸せであった。


end

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