倉庫 | ナノ


▼ *手取り足取り/〃(下)

体が欲するままに眠り続け、どれだけの時間が経ったろうか。

肌が粟立つような寒さに、彼女は渋々目を開けた。


部屋は驚くほど暗く、灯りらしき物は何処にも見当たらない。

一瞬、寝ている間に失明してしまったのではないか、という恐ろしい考えが脳裏を横切ったが、時間が経つにつれて暗闇に目が慣れ、周囲にある物が薄ぼんやりと見え始める。


畳に床の間…と、いかにも日本家屋らしい造りの部屋から察するに、どうやらここは本丸内のどこかに位置しているらしい。

部屋が妙に広いせいで気が付くのが遅れたが、寒いな、と思ったのは、出入り口であろう障子がほんの少し開いていたせいだった。


猫なら難なく通り抜けられるであろうその狭い隙間からは、秋特有の切なくなるような寒さがひっそりと忍び込んで来るからたまらない。

そういえば、あの青江とかいう男は何処に行ったろう?


あの刀剣を腕に抱いてすぐに現れた、という事は、彼は刀剣男士であるらしいが…果たして、初期刀よりも先に別の刀剣男士を顕現させていいものだろうか。

働かない頭を動かしがてら、本丸内の散策でもしようかと体を床から起こし、摺り足で月明かりの漏れる隙間へ近付く。


荷物…いや、あのスーツケースはどこに行っただろう。
大事な物がたくさん入っているし、見られたら恥ずかしくなるような物も多少は入っている。

廊下をふらついているうちに見付けられればいいけど…。


そんな事を考えながら障子へと手をかけた途端に、後ろからぬっと手が伸びてきて、彼女の腰の辺りをがしりと掴んだ。


「きゃっ………!?」


咄嗟に叫び声が口から飛び出すが、彼女はそのまま後ろに引きずられる。

何が起こったのかも分からないまま為す術も無く引き寄せられ、息を詰めて震えていると『何処に行くんだい?』と、聞き覚えのあるいやに艶々とした声が耳朶を打つ。


「え……あ、あの………ちょっと廊下にでようと、おもって……。」


「へえ、そうなんだ。」


ところで………、

そう言いかけ、背後で腰を抱く人物は、はだけた着物の隙間から手を差し入れ、彼女の首筋に顔を埋めた。



***



「〜っ!?」


声にならない叫びと自らの荒い息で、彼女の意識は再び覚醒する。

今のは、一体何だったんだろう…。


いやにリアルな夢だったせいか、やけに息苦しいような心地がする。

枕元にぼんやりと光る行燈の灯りを頼りに、夢の中に倣って周囲を見渡すと−−−彼女は奇しくも、夢の中で見た部屋と全く同じ造りの場所に寝かされていた。


いつの間に着替えさせられたのか、今は少々大きめの浴衣を着せられていた。

寝乱れた寝間着の隙間からは、ちゃっかりと自分の物ではない手が滑り込み、直に腰の辺りを抱いているのが分かる。
加えて、耳の後ろから首筋にかけての位置には定期的に温い息がかかり、想像しなくとも誰かがそこに顔を埋めているらしいのが想像出来た。


「ああ………ごめんね、起こしちゃったかな?」


「青江、さん。」


彼女にぴったりと体を密着させるように横になり、妙な触り方を繰り返している人物は、彼だったようだ。

『スキンシップ』と言うには過剰で生々しく、むしろ『弄る』とした方が正しいような手つきである。


「なにを…、」


何をしているんですか、

そう問うよりも先に青江はするりと床を抜け出し、覆い被さるような体勢になる。


少し強めに肩を押さえ付けられ、がばりと胸元を暴かれた。

開けっ広げられた胸元から彼の手が滑り込む。
下着を押し上げ、彼女の胸に直に触れたが早いか、慣れた手つきでその柔い箇所を揉みしだく。


「だ、駄目…やめて………!!」


このままではいけないという危機感から、彼女は懸命に彼の手を着物の間から追い出そうとするが、下手に暴れたせいで余計に着物がはだけてしまい、その光景を目の当たりにした彼は更に笑みを深めるばかりだ。

続いて手袋をしたままの青江の指先が、彼女のささやかな抵抗を嘲笑うかのように、胸の先を引っ掻いたり押し潰したりと単調な動作を幾度も繰り返す。


…ほんのそれだけ。
それだけなのに、初めての感覚に怯えながら、彼女は大きく体を震わせた。

文句の一つでも言ってやらねば、という一心でやっと開いた自らの唇からは、荒々しい言葉ではなく、湿っぽく熱い息が漏れ出すばかりである。


確かめるようにそこを好き放題に弄くり回し、彼女がべそをかき始める頃になって青江はようやく手を止めた。


「君は、やわらかいし温かいし、いい匂いがするね……前の主とは違うから、嬉しいよ。」


何やら含みのあるような物言いに、彼女は涙で潤んだ瞳をそちらに向ける。


「私の前にいた、神審者さんの事…?」


「うん。ちょっと前までここにいたのは男の神審者だったんだ。その前も、前の前も、ね…そうだ、君はここの本丸が上から何て呼ばれてるか知ってて来たのかい?」


大分前から『曰く付きの本丸』みたいな扱いになっているんだけど。

青江の形の良い唇から紡ぎ出される吐息混じりの言葉は、どれもくらくらするような凄まじい色気を纏っているが、何だか妙に説得力があるように感じるのも事実である。


犯されかけているのも忘れて首を横に振れば、彼は大袈裟に驚いた表情をして見せ、憐れむような目でこちらを眺めた。


「君も気の毒にね…だからって、今更送り返したりもしないけど。」


直後に、胸元に触れていた手の片方が下半身へと這い、秘所を覆っていた僅かばかりの面積の下着に指を引っ掛けてずり下ろす。

露見した秘所がいやらしい蜜でしっとりと濡れているのも構わず、彼はまだ誰にも悪戯された事のない清らかなそこを、そっとなぞり始めた。
その間にも、胸を触る手は止まらない。


上も下も好き放題に弄くり回され、体は素直な反応を返すものの、頭の方はそうはいかない。

まるで心と体がばらばらになってしまったかのような違和感が付きまとう。


それでも、今まで一度も男性にこんな触られ方をした事はなかったし、ましてや性的な行為など初めてなものだから、彼女にはどうしたらいいかなんて見当も付かなかった。

端から見れば『はしたない淫乱な女』と罵られても仕方が無いような有様であったが−−−直後、彼女は悲鳴を上げて初めての絶頂を迎えた。


完全に中までは犯されていない。
割れ目を撫でられただけだというのに体がビクビクと震え、噛み締め過ぎて切れた唇の端からは、血と涎が垂れる。

痛いのか気持ちがいいのか。
薄く開いた口から嗚咽を漏らすと、彼はうっとりと目を細めて、頭を優しく撫でながら容赦のない言葉を投げかけてきた。


「今日会ったばかりの男に抱かれてるのにそんな顔をするなんて…悪い子だね、」


「〜っ、言わないで……!!」


泣きながら訴えてみても、彼は素知らぬふりをして熱く濡れた秘所へと指を沈めた。

ぐぷぐぷ、と水音を纏わり付かせて乱暴に抜き差しされる指に蜜が絡み付き、恐れを主張する頭よりも快感を教え込まれた体の方が先に反応を返す。


彼女にとって、それは耐え難いほど悔しくもあり、ショックでもある。

一度は渇きかけた涙の痕をまた別の涙が伝い落ちて濡らした。


「や…、ダメ、やめて………何で、なんで、私がこんな事っ……!!」


やっとのことで声を絞り出し、最後の望みをかけて質問をしてみたが、彼は予想だにしない答えを返す。


「『何で』って、これがここの神審者の仕事だからだよ?」


「え………?」


「そもそも、ここの本丸は僕も含めてカンスト済みの刀剣男士がほとんどでね…本当のところ、出陣でも遠征でも僕達だけで何とかなるんだ。」


でもね、と、とびきり含みのある言い方をして、青江は恐ろしいほど綺麗に笑って見せた。


「それだと神審者の仕事が無くなるから、皆で考えて…この本丸の神審者の主な仕事は『刀剣男士と体を繋げる』と『刀剣の維持管理』だけになったんだ。ね、簡単でしょ?」


彼が首を傾げた拍子に、片目を覆い隠していた緑色の髪がさらりと流れて赤い瞳が現れる。

左右で色の違う両の目が凶暴な光を宿して、静かにこちらを見下ろしていた。


彼の人間離れした美しさや、掴み所の無い言動は、見る者を誰でも虜にしてしまうほどの妖しい魅力を放っていたが、それは人ならざる者だからこそ纏える危険な色香なのだろう。

一度魅入られてしまえば、もう後戻りできない所まで引きずり込まれ、元のようには戻れない。


恐ろしい考えが脳裏を掠め『今すぐにでも逃げた方がいい』と自分の勘が警鐘を鳴らし始めたが、行動を起こすよりも先に青江の手が体を押さえ込む。

華奢な見た目に反して、力が異様に強い。

やっぱり、この人は私とは違う。
人の姿をしてはいるけれど、自分とは全く違う存在なのだ、と今更ながらに再認識させられた。


「いや……そんな仕事やりたくない…!!」


『やめて!』『離して!』と、どれだけ声を張り上げても暴れてみても、助けは来ない。

そんな彼女を見下ろしながら、青江は冷たくなりかけた秘所に自らのいきり立ちを宛てがい、ゆっくりと沈めていく。


あえてすぐに押し込まないのは、わざとだろう。

少しずつ。
確実に自分の胎内に入り込んでくるそれは異様なまでに熱く、大きい。


一際痛い、と思った瞬間に、接合部からは生暖かい何かが垂れた。

恐る恐るそちらを眺めると、太股を伝う蜜の中に何か赤い物が混じっているのが見える。

これは、血だろうか…?


「あぁ、あ…!?」


先程達した時とはまた別に、頭の中が真っ白になる。

どう考えても、こんなに痛くて血が出るのは『純潔の証』と言われるあの膜が裂かれたからに違いない。

それに対して彼は、接合部から血混じりの蜜が滴るのを驚いたような顔で眺めた。


「…初めてだったんだ?」


ごめんね、痛い?

彼の声音は先程よりもいくらか優しくなったが、彼女は物も言わずに再び震える他なかった。


本当は、今にも気をやってしまいそうなくらいに痛いのに……。

出来れば中に入れている物を抜いて欲しいところだが、抜いたら抜いたでまた痛い思いをするのかと思うと、身がすくんで何も言い出せない。


苦し紛れに息を吐き出しても痛みは治まる事なく、酷い異物感と共に体の内側にある。

内側の一部が破れているのだから、痛いのは当然なのだけれど。


息も荒く脱力しきった表情でぼんやりしていると、青江はこちらを見下ろしながら眉根を寄せて考え込むような素振りを見せ。

『ちょっとごめんよ』という言葉と共に、彼がほんの少し腰を動かして内装を擦った直後、体の奥にまた激痛が走った。


「…っ!?あぁ…、やだ…!!いた、いっ……!!」


手で敷布団を強く握りしめて涙目のまま縋るように彼の方を眺めると、再度『ごめんね』と謝罪の言葉が降ってくる。


「やっぱり、これ以上はもう無理かな…いい子だから、ちょっと大人しくしててくれる?」


諭すようにそう告げて、彼はゆっくりと腰の辺りを押さえた。


「すぐに終わらせるから、あまり力まないでいてね。」


返事をする間もなく、ずる…と。
奥底に居座っていた彼の物が、勢いに任せて秘所から引っ張り出されていく。

そのせいで、少しは収まりかけた下腹部の痛みがぶり返してきた。


「ひっ…ぁあ!?」


悲鳴を上げ、どうにか痛みから逃れようと夢中で身を捩ると『こら、動かないで。』と、覆い被さって動きを止めにかかってくる。


「いたいって、言ってるのに………!!」


「もう少しだから我慢出来るよね?…ほら、苦しいならゆっくり息を吸って。なんなら、手も握っていてあげるから。」


さながら、泣きじゃくる子どもをあやす時のようにやわらかな声音と共に、頬に触れるだけの口吻が施された。

シーツを強く握りすぎて爪の先まで白くなった手を、彼の手が包み込むように握り、空いている方の手はぎこちなく頭を撫でてくれる。


いきなり強引になったり優しくなってみたり…と、少々極端すぎる面ばかり見せつけられてはいるけれど、ここだけを見るなら、彼は異様なまでに性格に難があるだとか、薄情な人ではないようだった。

場違いにそんな事を考えていると、間もなくして秘所の奥にあった強烈な違和感は取り払われ、その代わりに疲労感が押し寄せてくる。

寝るまい、と。
一生懸命に意識を保とうとするものの、彼はそれすら見透かしているようで、少々呆れを滲ませた声音が降ってくる。


「眠いなら寝ても構わないよ?」


「でも……、」


「大丈夫、今度は寝てる間に襲ったりなんてしないさ。このままだと当分、お預けは確定だしね…。」


とりあえず、安心してくれていいよ。

ゆったりとした調子で言い放ち、着物を軽く着付け直した後。
青江は最初のように彼女のすぐ傍へ寝転がり、布団を引き上げた。


近くにいるせいか、独り寝をするよりか体が暖かく、それに輪をかけて子どもを寝かしつける時のように彼が背中に手を回して、トントン…と拍子を打つものだから、自然と目蓋も重くなり、意識が揺らいでいく。


「さて…どうしたらいいかな。」


眠りに落ちる前に聞こえたのは、やはり彼の声。

それと同時に、部屋と廊下を隔てる障子の向こうからは、何人もの人の気配がしていた。


end

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